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故郷の本屋さんが出す冊子

 没後50年で三島由紀夫が注目されているが、私の父は彼の愛読者だった。だから三島由紀夫が割腹自殺した時に、父が「ありゃー」と嘆いていたのを、よく覚えている。

 父は小説が好きで、よく月刊小説誌の『オール読物』を読んでいたし、時々、小説の新刊本を手つきの紙袋2つ分、15〜6冊くらい一挙に買い込んできたものだった。三島由紀夫のほかにも松本清張とか水上勉とか。十代だった私は、そんな中で有吉佐和子を好んで読んだ。『恍惚の人』とか『三婆』とか『真砂屋お峰』とか『和宮様御留』とか、まだまだあるけど、面白かったな〜。

 父が本を買うのは、かならず清水の戸田書店だった。清水でいちばん大きな本屋さんだ。

 それから年月が過ぎ、清水市は静岡市と合併し、いつしか清水の主要商店街はシャッター街になっていった。そんな中で戸田書店は、静岡駅前に新しいビルが建った時に、その地下から2階までの3フロアに本店をかまえた。たぶん静岡県内有数の広さだっただろう。私も自著の販売で、何度か挨拶に行ったことがある。

 その代り、清水は閉店となった。その時にも寂しさを感じたが、今年の夏、残念ながら、静岡駅前の3フロアの本店も幕を下ろした。コロナ禍の影響も大きかったのだろうが、もはや駅前で本を買う時代ではなく、ショッピングモールの書店や、大きな駐車場のあるロードサイト店に需要は移ったのだろう。あるいはネットで注文するか、さもなくば電子書籍か。

 ただ戸田書店は先代社長の頃から「季刊清水」という小冊子を発行し続けている。「季刊」と銘打ちつつも、私の知る限りでは、年に1度、年末にしか出ていないが、そもそもの誌名が「季刊清水」というのだ。故郷の本屋さんの出版物だし、ときどき私も何か書かせてもらっており、今年の号(上の写真)にも「清水と私」という短いエッセイ(下の写真)を寄稿した。

 内容は、かつて戸田書店で本を買った父にからむ話だ。私の文章に限らず、地元の方は、ぜひ手に入れて読んでみて頂きたい。それが地方文化を支えることになる。

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