「やえちゃんと、」
作品紹介
2016年11月3日(木)〜6日(日)上演
6(〜14)人芝居 上演時間約90分
やえはロボット。
友だちで、家族で、理想で、嘘で、化け物で、子どもで、お母さん、
そんなロボット。
引きこもり青年・見栄晴がやえを通じて憧れの少女を求めるとき、
普通のふりして生きる少女・素直がやえを通して自分自身を思い出す頃、
未来の子どもたちは、やえを守るため、化け物の正体を突き止めようとする。
「真っ赤な化け物が世界を滅ぼす」
過去と今と未来を行き来しながら、
出会ったすべての人たちの〈これでいい〉を見守る、超再生物語。
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公演写真
裏話とか解説とか
※こちらの項目は内容にネタバレを含むので、気になる方はご注意ください。
名古屋で最後に作った演劇作品。
「ロッキーロード(アイス)」を作って、もう書きたいことないな〜と思っていたら、その作品を観て「一緒に芝居をやりたい」と仲間が集まり、「やりたいならやるか!」と半ば見切り発車で執筆に取り掛かった記憶。
未来からやってきたロボット「やえ」は、突如現れるなり、現在普通に暮らしている主人公「素直」を救うと宣う。しかし主人公は救われなければならないなどと言われても、まったく身に覚えがない。
そのまま「やえ」に強制連行された「素直」は、過去と未来とを行き来しながら、次第になかったことにした何かを思い出し始める。
これは未来か過去か、嘘か現実か物語か。素直は今現在の自分の、そしてロボット「やえ」を作った張本人「見栄晴」の心に辿り着く。
「作品を届けて誰かを、自分を救う」ことを目的として書いてきた自分が、今書けるのは、「届くことに失敗した作品」についての話だと思った。厳密には、初めから思っていたわけではなく、断片的に浮かぶ情景や感情のパーツを集めて物語になるよう組み立ててみたら、結果的にそういう話になっていた。
稽古と並行して執筆していたこともあり、どういう作品なのかは作りながら判明していった部分が大きい。つまり、実際の稽古場やら人間関係の状況に多大に影響を受けながら書いた作品である。
何かを作り続けることを理想とする自分と、土台無理だから現実的に生きようよって思っている自分が、ぶつかっていた。
作り続ける自信を完全に喪失しながらも、それでも最後は未来の自分を救うかもしれない一縷の望みを託し、無理やりポジティブな方向に話を締め括った。その時はただ、そうしないと物語が終えられないと感じていた。
つまり書いた当時はこのハッピーエンドを信じられていなかった。
終わった直後はボロボロで、脚本どころか演劇を続けることさえ、それにとてもじゃないが作品自体を振り返られるような心理状態でもなかった。
そのまま、私は劇団を退団した。
私生活でもごく近しい身内が亡くなって以来、数年間はあの頃の感受性がすっかり失われてしまっていたのもあり、ただただ普通に過ごした。
それでも、何の因果か今、書く仕事を細々とながらやらせていただけていて、塞ぎ込んでいた精神も無事復活し、つい最近この脚本をあらためて読み返したら、めちゃくちゃいい話だな、って自分で思ってしまった。
ただの嘘にならなくてよかった。
それだけでも作ってよかったし、この作品に対して「作ってよかった」と思える自分になれるなんて、思わなかった。
実は「やえちゃんと、」でやったこと、やりたかったこと、やり切れなかったことを、後のお仕事脚本でリベンジしたりもしていた。
作品を私物化して・・・と内省する反面、作品が私的でなきゃ何なのか、と思う自分がいることもまた事実なのでどうか許してほしい。
あの時あの場所きりだった想いが、形を変えて、時を超えて、昔は想像だにできなかった人々のところまで届くようになったことを、本当に嬉しく思います。
この作品は、そういう物語でした。
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