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白昼夢:一方的な愛

 どうも、折りたたみ傘です。色は黒、持ち手も黒。UVカットの機能があるので、夏場は日傘としてと使えます。今は、ご主人のバッグのなか。

 時刻は午後六時を少し過ぎたところ。昼間はお日さまが見えていましたが、今はぶ厚い雲が空を覆っています。ほら、今にも…、と思っていると案の定、ぽつり、ぽつり、と始まりました。

 やっぱり。やっぱり。
 だってご主人、今朝、ため息をつきながら私をバッグに詰め込んだんですもの。
 ご主人はマメな性格で、毎朝の天気予報チェックは欠かせません。私も靴箱の上でうとうとしながら、漏れてくる天気予報の声を聞いていました。
『夕方から雨の見込みです』
 この声がしたら、私の出番。朝から、もしくは昼の早いうちから雨のとき、ご主人は普通の傘を持っていきますから。

「荷物になるんだよなぁ」
 ご主人のため息と共に、そんな声を聞きながら私はバッグにおさまりました。ごめんなさいね。ご主人の右肩に、負担をかけてしまって。

 天気予報の通り、小雨が降り始めましたが、ご主人は私を取り出しません。さすほどもない雨なのでしょうか。
 …否。
 私、知ってます。
 ご主人は、あんまり私のことが好きじゃないのです。
 今朝のひとり言だけじゃなく。
「置き場に困るなぁ」
 使った私を畳んだあと、そんなことを言っていました。確かに。普通の傘立てには立てにくいし、濡れたままバッグに入れるのもなんだか抵抗があるし。お家ならそのまま玄関にでも置いて乾かせば良いですが、出かけた先じゃ、そうはいかないですもの。

 小雨がぽつぽつしてるのに、私を出さずにいるのも、私という湿った荷物をどうにかするより、自分が濡れたほうが楽というお話でしょう、単なる。

 とは言うものの、どうやら雨は激しくなっているようです。ご主人の最寄り駅まではもう少しですが。すれ違う人は、まるで、天気予報を見なかった人以外、皆傘をさしているような状況です。
 ようやく私に、ご主人の指が触れました。
 ご主人は恨めしそうに空を見上げ、雨粒が目に入りそうになったのか、あわててぱちぱちまばたきをして前を向きました。

 私は黒い身体を広げて、冷たい水滴を受け止めます。重たい雨の空気のなか、ぱらぱら、ぱらぱらと、せめて音は軽快に。
 ね、ご主人、濡れた私と電車に乗るのは嫌でしょうが、ずぶ濡れで乗るのも、それはそれで嫌でしょう?

 これは、私の使命なのです。
 どんなにご主人が、私に困っていたとしても。雨が降るのなら私はいつだって、あなたをこうやって守っていくつもりですよ。
 一方的な思い?
 上等です。それが運命ならば。

 以上、折りたたみ傘でした。






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