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超短編小説:猫の日、おめでとう!

 一昨年から、猫の日は祝日になった。
 ずいぶん前から、そんな気はしていた。
 猫の日は、毎年お祭りムード。あらゆるお店で猫グッズが大量に並べられ、飼い猫にもさくら猫にもどんな猫にも最高級のごはんが献上される。
「世界に猫が存在すること、そしてそんな世界に我々が生きていることに感謝しよう、祝おう」
 という活動が広がりつつあった。
 実際、祝日になる前から、猫の日は休日とする企業もあったくらいだ。

 だから一昨年、「猫の日は正式な祝日とする」と決定したときもさして驚きはしなかったし、まあ、でしょうね、と思っただけだった。

 ひとつ、思うところがあるとすれば…。
 猫の日、つまり、2月22日は、必ず学校が休みになるということだ。
 2月22日は猫の日であり…、私の誕生日なのだ。

 ただでさえ、猫の日の熱気におされて私の誕生日は流れてしまいがちなのに、学校まで休みになってしまうと、私の誕生日として認識してくれる人はますますいなくなるだろう。
 別に、とにもかくにも祝ってほしい!というわけではないんだけれど、親友ですら「ごめん!猫の日に夢中で忘れてた!」というくらいだから、少しだけ寂しい。
 それから…。誕生日プレゼントが軒並み猫グッズなのも考えものだ。
 猫は嫌いじゃない。でも、大好きってこともない。他の人の脳内で私は、どうしても「猫の日生まれ=猫好き」という変換をされてしまうらしく、私の部屋には使っていない猫グッズが並べられていた。
 猫はかわいい。でも、実は私は犬派だ。

 きっと今日はみんな誕生日を忘れているから、明日以降、大量の猫グッズが集まってくるだろう。
 ま、もらえるだけありがたい、ってことにするしかない。

 猫の日だから、学校はもちろん、部活も休み。サービス業の両親は関係なく仕事で留守。何もすることがない。
 暇だなぁ、と思いながらベッドでごろごろしていると、誰かが乱暴にドアを叩いた。こんな風に叩いてくるのは、あいつだけ。
「どーぞ」
 と言うと、ふたつ上の兄貴が入ってきた。大学生になった兄貴は、まだ2月なのにもう春休みらしく、ずっと家にいて鬱陶しい。
「暇してんの?」
「そうだけど」
「ふうん」
 兄貴はにやにやしながらこちらを見ている。あー、うざい。
「何?」
「んー?」
「用がないなら出てって?」
「まあまあ、ちょっとクイズでもしようや」
「は?」
「問題、今日は何の日でしょう?」
 あー、やっぱりうざい!
「はいはい、猫の日でしょ!」
「せいかーい。猫の日、おめでとう!」
「もういい?早く出てってくれない?」
 鬱陶しい兄貴を部屋から押し出そうとする。兄貴は素直に私に押されながらも、相変わらずにやにやしていた。気色悪い。
「出ていくから、そんなに押すなって」
「じゃあ早くどっか行ってよ」
「はいはい」
 兄貴は部屋を出ると、ドアを閉める前に小さな紙袋を置いた。
「何?」
「クイズ正解おめでとう賞」
 そう言うと、じゃ、と兄貴はドアを閉めた。

「なんなの、まじで…」
 どうせしょーもないゴミだろう。
 紙袋を持ち上げると、予想以上に重い。中身を引っ張り出して…、私はしばらく、黙ってそれを眺めた。

 入っていたのはしょーもないゴミ、ではなく、
 かわいい柴犬のイラストが入ったマグカップだった。

 そして、カップのほかに、無造作に丸められた紙切れがひとつ。開いてみると、兄貴の汚い字が踊っていた。

『今日は、オマエの誕生日!!!』





※フィクションです。
 わたしはねこ派。表記は「猫」「ネコ」よりも「ねこ」が好き。

 画像は、大学時代に尾道で出会ったねこちゃん。

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