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短編小説:私の着たい服

最近、みおちゃんのファッションが変わった。
前はよく、ワンピースやふんわりしたフレアスカートをよく着ていた。色はピンクや水色とか、かわいいパステルカラーが多かった。
でも最近は、ワンピースをまったく着なくなった。パンツスタイルが増えて、スカートは履いていても前みたいなふんわりした形じゃなくて、タイトなものばかり。
色も、パステルカラーじゃなくてカーキとかベージュとか、くすみカラーが増えた。
髪型も変わった。長くて明るい茶髪をくるくる巻いていたのをばっさり切って、ボブになった。暗い髪色に、金色のイヤリングカラーが目立っている。

みおちゃんはかわいい。
前のファッションも可愛かったけれど、今のファッションもよく似合う。たぶん、何を着てもかわいいんだと思う。
みおちゃんはお洒落が好きだ。
今の服装もとってもお洒落だ。
でも、本当に好きな服なの?と思ってしまう。

「みおちゃん、なんで最近ファッション変えたの?」
夏休みのある日、お洒落なカフェでスイーツを食べながら、みおちゃんに聞いてみる。
「んー、私ももうハタチだし、似合う服着ようかな、と思って」
「前の服もかわいかったよ」
「そんなことないよ」
みおちゃんは苦笑いしてふわふわのかき氷を口に運ぶ。
「なんで?前のスカートも似合ってたよ」
「似合ってないよー、私、骨ストだし」
「骨スト?」
「そ、骨格ストレート。だから前みたいなスカートは似合わないんだ」
みおちゃん曰く、骨格にはいろいろタイプがあって、それによって似合うファッションは違うらしい。みおちゃんは骨格ストレートで、ふんわりしたスカートよりもタイトスカートやパンツスタイルの方がよく似合うという。
「私にも骨格タイプってあるの?」
ロングスカートやフレアスカートばかり履いている自分が心配になる。みおちゃんが似合わないと言う服が、私にはちゃんと似合っているだろうか。
「そりゃあるよ!リサはたぶんナチュラルかな。今のファッションぴったりだと思うよ」
「そうなの?ありがと」
私より、みおちゃんの方がよっぽど似合ってた気がするけど。
それからみおちゃんは、カラータイプや顔タイプもあるのだと教えてくれた。今までのみおちゃんのファッションだと、そのタイプに合っていなかったらしい。最近は自分のタイプに合わせた服を選ぶようになったんだって。
私にはよくわからない。

「あれ、みおとリサじゃん!」
声をかけられて顔を上げると、大学の友だちの美咲ちゃんと、知らない子がふたりいた。バイト仲間、と美咲ちゃんが紹介してくれる。
「てかさ、みお、なんか雰囲気変わった?」
「え、わかる?」
「わかるよー!髪型もファッション変えたでしょ!めっちゃ似合ってる!」
美咲ちゃんもお洒落な子だ。美咲ちゃんに言われて、みおちゃんは嬉しそうに笑いながら「そんなことないよ」と言った。
「あ、みおが食べてるかき氷!私たちもそれ食べに来たんだよね!」
「美咲ちゃんも?今これ流行ってるよね!」
このお店のふわふわかき氷が、今SNSで流行っているらしい。私はよく知らないし、かき氷はそれほど好きでもない。
「そうそう!めっちゃかわいいよね!で、リサはなに食べてるの?」
美咲ちゃんに尋ねられたので、
「チーズケーキ」
と答えると、ええー!と美咲ちゃんは大袈裟に驚いたように言って笑う。
「この店でわざわざチーズケーキ食べてんの?」
「だってかき氷って水じゃん」
そう言うと、美咲ちゃんとその友だちは笑った。
「さすが、リサ!私、リサのそういうとこ好き」
美咲ちゃんはよく、「リサのそういうとこ好き」という。どういうとこかはよくわからない。
じゃね!と手を振って、美咲ちゃんたちは離れた席に座った。
みおちゃんとはよく一緒にカフェに行くけれど、かき氷なんて頼んでるのは今日初めて見た。
「みおちゃんも前は、かき氷はただの水って言ってたのに」
「それは前のことでしょー」 
みおちゃんはにこにこ笑っている。
「リサはぶれないよね。私、リサにはそのままでいてほしいわ」
にこにこしたまま、みおちゃんは言う。
私は、みおちゃんもそのままでいてほしかったけどな、と言いかけて、やめた。

それから、みおちゃんはメイクも変わっていった。前までの「かわいい系」から、「かっこいい系」にシフトチェンジしたようだ。
みおちゃんをお洒落だと褒める人が増えた。そのたびにみおちゃんは、顔を赤くして嬉しそうにする。本当に嬉しいんだろう。みおちゃんは楽しそうな顔をすることが増えた。だけどやっぱり、本当にその服好きなの?と聞きたくなってしまう。
「リサはさ、昔からお洒落だよね」
ある日、この前と同じカフェでメニューを見ているとみおちゃんが言ってきた。
「私が!?」
そんなことない、みおちゃんの方がお洒落なのに。
「そんなことないよ、私は好きな服着てるだけ」
一度、みおちゃんに教わって『骨格診断』『顔タイプ診断』をしようとしたのだが、質問項目が多すぎて途中で止めてしまった。だから、私のファッションは何も変わってない。
「リサはさ、きっと、好きな服と似合う服が同じなんだよ」
みおちゃんは少し下を向いて言った。
「私はさ、好きな服と似合う服が違うんだ」
だからいろいろ、調べないといけないの。と、みおちゃんは続ける。
「でも、」 
でも、前のも似合ってたよ、と言おうとして、止めた。
自分のタイプを考え、本当に似合う服を探しているみおちゃんに対して、その言葉はあまりにも「余計な一言」だ。みおちゃんが『着たい服』は『好きな服』じゃなくて『似合う服』だった、というだけ。みおちゃんにとって本当に『好きな服』ではないかもしれないけれど、きっとそれがみおちゃんの『着たい服』なんだ。
「みおちゃん、かわいいよ」
前のも似合ってたよ、の代わりに言った。今のみおちゃんも、前のみおちゃんも、どっちもかわいい。
「もー、なによー」
みおちゃんは恥ずかしそうにメニューで顔を隠した。でも、ちょっと嬉しそうだ。
「今日はショートケーキにしようかな」
なんだか照れ臭くなったから、メニューに視線をうつす。
「じゃあ、私は抹茶パフェ」 
「今日はかき氷じゃないの?」
「今日は好きなもの食べたい気分なの!」
大きいサイズにしちゃおうかなー、と楽しそうにみおちゃんは笑っている。
「この前食べて思ったけど、やっぱかき氷って水だったわ」
「そうでしょ?」
ファッションが変わろうが、『着たい服』が違っていようが、みおちゃんはみおちゃんだ。本質は変わらないんだな。
「食べたいもの食べたらいいよ」
と、私も笑った。




※最近よく聞くワードをテーマに書いてみました。
 ちなみに矢口、ファッションのことは全っ然わかりません。難しい!


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