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超短編小説:俺とカマキリ

 アパートの低いブロック塀に、緑色のカマキリが一匹。まだ小さい。俺の小指の第二関節ほどもない。そして細い。
 弱そうなカマキリ。「おう、夏だぜ」とは言わなそうだ。そのくせ、いっちょまえにカマを振り上げてやがる。
 まだまだだね。
「俺は元気だぜ」
 って言葉が似合うくらいデカくなってから、出直してこい。
 俺は今から仕事だぜ。
 この前提出した企画書。あれは最強だ。そろそろ上司のチェックも済んでいるはず。
 評価が待ち遠しいぜ。


「結論から言うと、やり直しだね」
 薄らハゲの上司は苦笑いして言った。
「やり直し…、ですか?何か内容に問題が…、」
「内容、というかね」
 上司はぽりぽりと頬を掻いた。
「ちょっと誤字が多いね。自分でも読み直してる?それから、今回の企画書は書式の指定があったはずだから、ちゃんと守って」
「はぁ…」
「それと、途中に出てくるデータ。本当に最新かな。確認してみてね」
「はい…」
「まずはそこ修正して、内容はそれからだね」
「…」
 出直してこい、ってか。
「ま、君がこの企画頑張ってるのはわかってるから。期待してるよ」
「…ありがとうございます」
 俺もまだまだだな。
 別に、落ち込んでないし。仕方ない、確認してなかった俺のミスなんだから。
 俺は元気だぜ。


 アパートの低いブロック塀に、緑色のカマキリ。前にいたやつよりも、ちょっとデカい。別のカマキリなのか。それとも、あいつがちょっと大きくなって出直してきたのか。
 ほら、またいっちょまえにカマを振り上げてやがる。
 ま、前よりはサマになってるかな。
 俺は今から仕事だぜ。
 企画書を再提出するんだ。きちんと出直してきたから、もっと最強だぜ。
 元気そうだなぁ、カマキリ。
 俺も、元気だぜ!






※フィクションです。
 「おう、夏だぜ」は今でも伝わるのか!?






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