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車窓と海

 この列車の終着駅、ジュール・ヴェルヌ・ステーションが刻々と近づいている。

 寝台列車ノーチラス号と謳う割には、その形状は在来の車両群と、さして変わらない見た目をしている。

 氷海を切り裂く金属製のツノも、船長室、もとい車掌室に特注の巨大な円形ガラス窓は取り付けられていない。

 反面、わたしにあてがわれた小さな部屋には、水槽を見物するための、簡素な、すきとおった円形ガラス窓がしつらえてある。

 莫大な水槽の中を覗けば、海底にそびえたつ高山の山腹が眼前に見えた。

 うすく細長い糸のような魚が、車両を取り巻いている。熱帯に住んでいるはずの、絢爛とした魚の群も見える。
 目を凝らせば、海底山の近くで真珠を不法に搾取する男の姿も見えるような気がする。

 氷山だ!海底まで間もない、群青の腹中で出会う氷の塊は、いたく純朴で、深さのわからぬ暗暗としたシルエットをしていた。

 果たして、海底の絶壁にひらいた、大きなトンネルが見えてきた。

 トンネルの内部は、壁に沿ってホームが造成されていた。

 列車はこのまま、トンネルを通って大陸を抜け、また、海中世界一周の旅の出発駅へと還ってゆく。

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