主に日常と夜の詩を書きます。

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最近の記事

【詩】終電

はいいろに すべてがにじんで 地下鉄は 溺れながら進んで 狭苦しい 消毒済みの 矩形の水槽の中で 思い悩む 魚のようだよ 香水みたいに 移ろっても 最後はみんな 同じ夜にたどり着く 恥ずかしくはないさ 下手な息継ぎしながら きみのこえ 抑揚のない 讃美歌のようだよ まっくらでも 怖くはないさ みんなおんなじだから さいごはみんな おんなじなんだ

    • 【詩】消えてゆくもの

      はかなくて やわらかい思いを 生まれながらに抱えて 時に重くて 時にはたいせつな いつか消えてゆくもの 無くしてはいけないもの そう思い続けて こんなにも遠い所まで来た でもその繋いだ手を 離してもいいんだよ 重力から解き放つように 無くしてはいけないもの 忘れなければいけないもの 少しだけ寂しいけれど あなたが歩いて行く為に 長い歳月をかけて いつか消えてゆくもの

      • 【詩】夜明け前

        更けてゆく夜が 静かに染み込んで 肺の中まで満ちてゆく 明日の事など思い悩まず 夜に溶けてゆく 今は何も喋らないで 何も見ないで 何も聞かないで ただ月にもたれていて そのままで 伸びてゆく影が 薄明かりに照らされて 次第に私を許してゆく 少し薄れた憂いと共に 夜が明けてゆく

        • 【詩】夜

          夜風が心のひだを 静かにくしけずる。 少しだけ穏やかになれ。 小さく吹いた息 今日は灯りを消しておくよ。 次第に人もいなくなる。 言葉にできない感情を いくつも抱えて今を生きている。 それだけでありがとう。 少しだけ垣間見える その傷跡を、本当の夜で包もう。 例えその場しのぎでも。 何度でも。 幾重にも。 例えすぐ朝が来たとしても この夜はあなたのためにある。

        【詩】終電

          【詩】朝未だ来、継ぎ接ぎの夜に

          陽の当たらない誰かのために 痛みの少ない月明かりで やけどしたような心を 青白く冷ましていく 眠れないのは ただ夜に留まりたいから それでもうつろいの中 紙芝居みたいに わかりやすい幕切れじゃないけれど 朝が来る前に 整える心の調律 翻る風景に私を探す 朝が嫌なんじゃない 夜が好きなだけさ さあいってらっしゃい つぎはぎだらけでも あなたはとてもきれいだよ

          【詩】朝未だ来、継ぎ接ぎの夜に

          【詩】null

          なにも無い夜 見わたせば こしらえたはりぼての月 わたしはぬけがら 最低限の炭素と水で出来てる ここから見たあなたは 空っぽの水槽の中 えも言われぬ寂しさと 心をえぐる 優しいはにかみで出来てる ようやく 終わりのない終わりが終わる 右側のぬくもりも 左側のためらいも 出来る限り持って行こう わたしたちは夜でつながり 暁とともに 色褪せながらはなれていく

          【詩】null

          【詩】いつわりながら

          土砂降りの雨の中で 微笑むあなたは 恵みの雨だと言い聞かせた 雑踏で蹂躙されながら 夢を見るあなたは それでも信じていた 例え叶わなくとも 汚泥の上澄みをすくい 別の水たまりに移す 心を削り 上前をはねる様な日々に いつわりながら あなたは生まれた町を思い いつわりながら 今日もこの街で生きていく 泥の中で 傷付き汚れ泣きながら やさしさを求め続ける いつわりながら

          【詩】いつわりながら

          【詩】トロイメライ

          夜空からこぼれた淡い光。 まどろみの中 視界がにじみ 記憶がほどけるよ。 今も見る 子供の頃の夢は ぬけがらだけが残り もう怖くはないからね。 明日が悲嘆だけじゃないこと 今はまだ信じられなくても 心配ないからね。 戻れない過去の憧憬は幻。 私は随分と遠く離れ お利口になったのにね。 真夜中に包まれたまま 今日の私をおびやかす そんな「なにか」が通り過ぎるまで どうか瞼を伏せていて。 気がつけばほら 昨日と明日に気付かれないままで 生まれ変わるよ。

          【詩】トロイメライ

          【詩】慈雨

          理の中で できる範囲の喜びを分け合う 一瞬を切り取れば不幸でも 映写機みたいに断続する風景の中で どうか笑っていて下さい 頬を伝う 温かい 真夜中の雨が まだ止まない 拍手の様に 遍く地面に 花を咲かす 救われない人も 報われない物語もある 私達はいつも抗えないけれど 道の上、揺れる造花で せめて穏やかに眠れます様に 弱い者達が慎ましい願いを叶えていく この世界でどうか生きていて下さい

          【詩】慈雨

          【詩】斜陽

          漸く終わらせた今日の 名残を留めず また新しく生まれ変わる。 ちいさな破滅を 何度も何度も繰り返しながら。 それはまるで ずっと遠くで聞こえる 日曜朝の讃美歌。 嫌いな人のよろこびと 大切な人のかなしみを 一括りに肯定する。 今日の役目を終えた残骸達が 夜にこぼれ落ちて行く。 それはまるで いつかの私のよう。 空を赤黒く染めながら 深く、沈んで。

          【詩】斜陽

          【詩】観覧車

          変哲の無い夜に 回る時計の様に 終わらない事を願いながらも 微かな希望を宿す明日に 気付けば頂上 雲間から月明かり 針は刻む事を止めない 収束して行く意識 間も無く昧爽 幾つかの思いが 戯れながら相容れず 私を成して行く 相席している醜さと 何度も繰り返す輪廻 私以外の誰も触れられない 触れて欲しくない とてもやわらかい何か そうして終着 足元に気を付けて 優しいあなたが今日を渡れます様に ここでまた待っている

          【詩】観覧車

          【詩】彼誰時の祈り

          いつか見てたね 凪いだ夜に 蝋燭を吹いて消した暗い空 ほらね、ほの白い月だけ忘れて 置き去りだったよ 私みたいね 命といのちの幕間に 夢見た静謐の底 もう戻れない場所にあるけれど とても儚く幼いけれど それでも捨てずにいたいよ またね、あの頃に もし戻れたのなら ごめんね、それでね 今は大丈夫だからね 傷跡はいつまでも消えないけれど 涙は乾いて たいせつなものは今もあるから まだもう少し 安心して、おやすみ

          【詩】彼誰時の祈り

          【詩】アフターグロー

          柔らかいシーツの海を漂って 無地のカーテンの向こうから 明日が「やぁ」と顔を出すまで ただ穏やな怠惰にくるまる 壊れやすい香水瓶みたいにつつんだら ここは誰も私を傷つけないよ。 寂しさと虚しさのつぎに来る 泥になったようなぐにゃぐにゃの そんな浅い夢のあと テーブルの上、淡い光の透明な 花器をなぞる白い指が なんだかとてもキレイだった。 泳いでいるような 沈んでいるような 木漏れ日の浅瀬でボンヤリと 息継ぎするような寝返りが なんだかとてもキレイで なぜだか私は泣いていた

          【詩】アフターグロー

          【詩】新月浴

          別珍の絨毯の上を 裸足で歩く 振り向けばもう 降りきった帳が 星明かりも ひとときの悲しみさえも隠して 目蓋を開ける前の 嬰児みたいに 無意識に光を願って 私は期待と不安が入り混じり あの子よりも汚れているけれど 私よどうか この暗闇に慣れないままで 灯火の無い世界は 誰にも等しく静寂を与える 衣擦れと鼓動だけが遠く聞こえる 淋しいほどに厳かに 目隠しをしたまま裸足で歩く 気付けばまたガラス片散らばる大地 まもなく月は薄目を開けるよ

          【詩】新月浴

          【詩】上の空

          稜線に陽が沈む その数秒前の黄昏を いつまでも瞼の裏に揺蕩わせている 限りあるまどろみの中で いつしか見る夢の そのまた淡い夢の中なのに 嘆いてばかりの日々の終わりに ただ甘いだけの言葉にすがる 誘蛾灯にたかる今日の残骸 夜の闇は何も答えない ただ色の無い世界に沈んで 喧騒の去った後の静けさと 散らばる心を拾い集めるやるせなさ 心臓の音だけがひどくうるさく まるで壊れてしまいそうなのに 心と身体はとうに離れたまま うわのそら

          【詩】上の空

          【詩】せかい

          私の知らない町の 私の知らない誰かが 私の知らない誰かの 悪口を言っている とりとめのないささやかな事柄が うずたかく積み上がり 今日を形成していく 人は小さく笑ったり 人は小さく傷ついたり それでもそこに居続けなきゃいけない この小さなせかいで あなたは今日も すこしだけ笑って またすこし傷ついて それでも生きていてくれる こんなせかいで

          【詩】せかい