5.12ナイチンゲールの日
図書室で読んだナイチンゲールの伝記
雷に撃たれたみたいに感銘を受けて
私はその日からナイチンゲールになろうとした
保健委員になって
怪我した子を保健室まで連れて行って
最初はそんなだったけれど
だんだんと私のなかのナイチンゲールが
増殖をはじめた
『ナイチンゲールはそんなことをしない』
みんなと一緒に誰かの悪口を言えなくなった
『ナイチンゲールはそんなことをしない』
給食の野菜を無理して食べた
『ナイチンゲールはそんなことをしない』
嫌なことをされても毅然とした態度で
『ナイチンゲールはそんなことをしない』
何度も手を洗って清潔に
清潔に
心も身体も清潔な私でいること
そうしたらナイチンゲールに近づけるのだ
幼なじみの女の子が
困った顔でこう言った
「会ったこともないナイチンゲールになるのは無理だよ」
ナイチンゲールよりも
元のままの私の方が好きなのだと
幼なじみはついには泣き出した
私は幼なじみの頭を撫でながら
ごめんねと小さく謝った
きっとナイチンゲールなら
そうするだろうと思ったのだ
私はナイチンゲールにはなれない
ナイチンゲールがどんな人かも本当は知らない
ただ物語のなかの彼女を追いかけて
自分の醜いところを潰していくしかなかった
美しいばかりの彼女を
憧れだけで追いかけている
私はナイチンゲールになれない
私はナイチンゲールになれない
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