3.15 オリーブの日
妻には変な癖がある。
きょうも昼休みにパスタを作りながらその癖が出そうだったので、冷蔵庫から牛乳を取るついでにそこに留まって妻の観察をした。
ベーコンとアスパラガス、きのこに玉ねぎをバターで炒めた具材に、隣で茹でていたスパゲティの麺をあざやかな手さばきで投入する。
手際の良すぎる点を除いて、ここまでは普通のよくある光景である。
そして彼女はフライパンの中身を二、三度くるくると混ぜると、待っていたその癖は現れた。
「レッツ、シング!」
戸棚の下から細長くおしゃれな緑の瓶を取り出すと、彼女は天井に向かって掲げて、透明な薄黄緑色の液体を細く細くフライパンに落とし始めた。
「チャラララララ〜ッ。チャラララララ〜ララ〜」
妻はオリーブオイルを使うとき、必ずこのオリーブの首飾りを口ずさむ。マジシャンでもあるまいに。
楽しげに腰を振り、こぶしを回す妻を見て、うむ。今日も通常運転であったと、異常な妻の異常なしを確認したところで私は牛乳を注いだグラスを持ってリビングへと引き返した。
ソファに座って一息つくと、勝手に口からオリーブの首飾りが漏れ出ていて苦笑した。
愉快な妻を持つことは生活に多少支障をもたらすが、ある意味楽しく人生を生き抜くために有効な方法のかもしれない。妻の癖はとどまることなく今も増殖している。
これほど愉快な妻を持つ私は、きっとラッキーなのだ。
「ダーリン、ご飯できたわよぉー」
ダーリンとはこれまた。妻は今日は一段と機嫌がいいらしい。
私は腰をあげて、食後に妻を喜ばせるための外出プランを頭の中で練りながら、オリーブの首飾りを口ずさんでオリーブオイルたっぷりのスパゲティの待つ食卓へと向かった。
平和な正午である。
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