3.24 マネキン記念日
鼻筋の通った白い顔のマネキン少年が、ほっそりとした指を伸ばして夜空を見上げている。
ガラスのショーウィンドウの中。
街角に人はおらず、街頭の灯りに全身をぼんやりと映し出された姿を見ている者はいない。
八月も終わりのその夜は、濃青の空に生まれて間もないひよこのような月が浮かんでいた。
体にまとわりつく地上の空気は熱されたアスファルトから放たれる生温い吐息でにごっているのに、どうやら大気圏より先は澄んでだいぶ涼しげであった。
指先でつつけば動くのではないかと、人気がないのを良いことにマネキン少年はそっと夜空に手を伸ばした。
触れた指先はあたたかく、やわらかな羽毛はさらさらと心地よい。
深く睡っているのか起きる気配のない小さな命の感触を、マネキン少年はしばし空っぽの胸に焼き付けた。
まだ夏の残る、青い夜だった。
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