オレンジ雲とタバコの煙
明け方4時。
あたりはまだ闇の中。
久しぶりに相棒を引きずり出す。
出来るだけ静かに。まるで盗難してる錯覚。
シリンダーに火を入れる前に装具を着ける。
キーを指しOKのサインを確認したら長めのクランキングで相棒が目を覚ます。
同時にタバコに火をつけ吸い終わるまでには血が通うはずだ。
吐き出した煙が街灯の光に揺れる。
さあ、出かけよう。
スタンドを跳ね上げ坂をニュートラルで降る。出来るだけ先の方まで。
止まれの文字でミラーを確認する。とは言え闇しか見えない。カタンと身震いさせオレンジを右に放ち高速を目指す。
高速インターからぬるりと滑り込む。
相棒の明かりだけが暗闇を照らす。
相棒の体温を感じ始めたらタイヤも暖まってるはず。
アクセルを開ける。
弾かれたようにアスファルトを掴む。
相棒が深く息をすると同時に蹴飛ばすような加速で闇を走る。
突き進む。
やがて薄いピンク色の世界。
生まれたての一日が辺りを包む。
朝日のパッシングがバックミラーに映る。
早くしろと煽る。
ハイスピードコーナーが続く。
川を越えトンネルを抜ければ海だ。
雲がオレンジに染まる。
どんどん濃くなるオレンジの世界。
一日が目覚める時間だ。
高台の坂を登り見晴らしの良い場所を探す。
相棒を乗り入れスタンドを立てる。
排気音が消え辺りが波音に包まれる。
海に浮かぶオレンジ雲とタバコの煙が重なる。