『お嬢様学校の厳罰』

 私の通う学校は中高一貫校。偏差値が高く、4年生から塾通いを始めた。友達からの遊びの誘いも時々断り、猛勉強の末何とか合格した。

 勉強も大変だが、礼儀作法や立ち居振る舞いにも厳しい。だが、ここを出ると系列の女子大にほぼ無条件で入ることが出来る上、一流企業にも就職しやすい。一流の教養や品格を身に着けていると信頼があるからだ。

 校則も厳しかった。言葉遣いは細かく定められているし、外出時は制服着用。寮の門限は18時。その他さまざまな校則があり、日々窮屈な思いをしていた。

 当然校則違反者には罰則もある。軽微なものでトイレ掃除や草取り。重くなると1ヶ月の奉仕活動なんてのもある。最も重い罰則は明文化されていないが、それを食らった生徒はとても辛い思いをして、退学していく子も過去にはいたと言う。

 そんな環境にも慣れ始めていた6月のことだった。高等部二年生の子が高級化粧品を万引きをして補導された。停学になったが、同時に罰則が適応されるらしいと聞いた。どんな罰則なのだろう…。

 月初めの全校集会。大型のスクリーンに動画が流された。例の万引きをした子が椅子に座り、散髪用のケープをかけられている。傍らには生徒指導の先生。
「皆様、おはようございます。この生徒は万引きを繰り返していました。これは重大な校則違反であると同時に、犯罪でもあります。よって今から罰を与えます。」
 
 あの姿、髪の毛を切られるのではないだろうか。嫌な予感しかしない。すると先生はハサミを手にして、その子の長い髪をバッサリと首元で切り始めた。悲鳴が上がる。横の髪も耳の上で切られ、不格好な髪型にされていく。

 そんな…ひどい…女の子の髪を切るなんて…しかもあんな適当に…。かなり短くしたところで、先生はハサミを置いた。これで終わりかとホッとしていたところ、あろうことかバリカンを手にした。

「嘘…いや…それだけは止めて下さい!!」
「あなたは学園の名前を汚すことをしました。もう二度とこのようなことはしないよう、罰を受けてもらいます。」
 そう言って、問答無用とばかりにバリカンを額に走らせた-。

 バリバリと前髪が一気に刈られた。キャー!!と悲鳴。それでも先生は手を止めることなく、どんどん髪を刈っていく。生徒の中には泣き出す子、失神する子などパニックになった。

 信じられなかった。あの子、丸坊主にされている…なんでこんなことを?万引きがそんなにいけないことなの?どうして女の子にとって大切な髪を刈られないといけないの?

 バリカンなんて男の子に使う物だ。女の子には襟足を整える時に使うぐらいだ。それに丸坊主なんて女の子はまずしない。いくら罰だからと言って、ひどすぎる…涙が込み上げてきた。

 黒髪が刈られていき、先生がバリカンを置くと、その子は青々として丸坊主になっていた。時間にして数分だったが、すごく長く感じられた。号泣する生徒。床に落ちる大量の髪。さっきまで見事なロングヘアだったのが信じられない。最後に先生はカメラに向かって「あなたたちもこうなりたくなければ、悪いことはしないように。」と締めた。

 休み時間。クラスは今朝の出来事で持ち切りだった。
「ひどいよね。いくら何でも丸刈りはないよね…。」
「うん…あんなに長かったのに…。髪を切るのだってショートカットじゃだめなのかな?丸坊主にすることなんてないのに…。」
「私バリカンで坊主にするところなんて初めて見たよ。」
「私もよ。」
「あの人、あんなに長かったのに…。」
「怖いよね。絶対に悪い事は出来ないよね。」私は無意識に三つ編みを握りしめていた。

 とんでもない学校に来てしまった。厳しい教育は私たちが一流の女性になるためとは理解している。だが、いくら罰とは言え、果たして女の子を丸坊主にするのはどうなのだろう。でも今更転校なんかしたくない。友達も出来て楽しく学校生活を送れているのだから。私は気を付けよう-。

 その晩はなかなか眠れなかった。目を閉じると、どうしてもバリカンで刈られる彼女が脳裏に浮かぶ。けたたましいバリカンの音、刈られていく髪、やがて丸坊主にされる彼女。何度もその光景が蘇ってきた。私はあんな目に遭わないにしようと固く決意した。

 その後は何事もなく過ごしていた。勉強は難しかったけれど何とか付いていき、テニス部でも練習試合で勝てるようになってきた。

 テニス部は他の学校みたいに髪型の規則がなかったため、私はお気に入りの三つ編みでプレイしていた。大会で見た他校はショートカットだったり、刈り上げの学校もあった。短い襟足を見て、きっとバリカンでやられたんだろうなと思うと、気の毒になった。

 中学三年生になった。普通は受験勉強だが、ここは自動的に高校に上がれる。何となく勉強にやる気が起きなかった。テニスもそこそこ上手になったが、それ以上は上手くなれず、漫然と練習していた。昨年までの緊張感が消え失せていた。

 そんな時、小学校時代の友達の真樹に誘われた。鞄には私服を忍ばせていた。友達と遊ぶのに制服なんか嫌だから。たまには羽を伸ばしたい。

 数年ぶりに会った真樹は、かなり変わっていた。引っ込み思案だった彼女は髪を染め、派手な服装になり、言葉遣いも変わっていた。

 だが、すぐに昔の感じで喋れた。ショッピングをし、ランチを食べ、初めてカラオケに行った。流行りの歌を熱唱し、すごく盛り上がった。

 興奮の中、真樹がふとポケットから何かを取り出した。それはタバコ-。一瞬で興奮から覚めた。
「ち、ちょっと、何するの?」
「何って?タバコよ。吸ったことないの?」
「あるわけないでしょ?まだ中学生なんだし。」
「いいじゃないの、固い事言わないで。それより絵美子も吸ってみたら?」
「わ、私は止めとくわ!」
「何事も経験よ。一本ぐらい吸ったってどうってことないわよ。たまには羽目を外したっていいじゃない。ほらほら!」
「そ…そうよね…。」

 この時の私はどうかしていた。学校生活にモヤモヤしていたところに、昔の友達に会ったら、自由奔放に過ごしていた。そんな彼女が羨ましかったのかもしれない。真樹の言うように、たまには羽目を外してみよう。それにタバコってどういう物なのかも気になった。

 一本ぐらい…どうってことないわよね…。

 この一時の気の迷いが大事になるとは…。

 タバコを吸ってみた。煙たくてまずくて何これ?と思った。その時だった。急に扉が開いて、生活指導の先生が驚いた顔で入ってきた。

「河野さん…これはどういうことですか?」
「え、あ、あの、友達に勧められて…その…。」
「タバコなんて…うちの学校では校則違反です…それ以前に、未成年が吸ってはいけないものよね。」
「はい…。」弁解の余地はなかった。
「明日の朝一で生徒指導室に来なさい。それからあなた、うちの生徒に変なことを教えないで下さい!」

 私どうなるんだろう。まさか…丸坊主にされてしまうの?…考えただけで涙が出てきた。真樹と気まずいまま別れ、フラフラと寮に戻った。

 その日はごはんが喉を通らなかった。私何であんなことしてしまったんだろう。何とか奉仕活動ぐらいで済まないだろうか。

 お風呂に入って、髪を洗う時は手が震えた。もし丸坊主にされてしまったら、こうして洗うことも出来なくなる…。

 ベッドに入っても、一年生の時に見たあの光景が目にちらついた。バリカンで長い髪を刈られ、青々とした坊主頭にされた彼女のことを。まさか私も丸坊主にされる…いやそんなことはない…でも、タバコなんてかなり重い罰になるかも…。涙が出てきた。明日が来なければいいのに…。

 無情にも朝が来た。登校すると、すぐに生徒指導室に呼ばれた。そこには昨日の先生が待っていた。
「昨日はショックでした。まさか優等生の河野さんがあんなことをしているとは…。先生はがっかりしました。」
「すいません…でもあれが初めてです。あの子とはもうお付き合いしません。どうか許して下さい…。」
「うちの学校の校則は分かっていますね?最も重い罰則は何かということも。」
「はい…。」
「それならばよろしい。タバコを吸う、さらには私服で外出する、こは厳罰に当たります。よって今から丸坊主になってもらいます。」
 
 死刑宣告に等しかった。
「そ、それだけは…勘弁してもらえませんか?」
「いいえ。規則は規則です。みんなきちんと守っているのに、あなただけ違反を見逃すわけにはいきません。」
「髪は女の子の命なのに…せめてショートカットじゃダメですか?」
「ダメです。例外は認めません。さあ、そこに座りなさい。嫌がるなら抑えつけてやりますよ!」

 座りたくなかった。座ったら最後、丸坊主にされてしまう。でも逃れられなかった。渋々座ると、ケープをかけられ三つ編みを解かれた。

 ガタガタと震えが止まらない。反射的に逃げようとしたが、すぐに体を掴まれた。そして先生はバリカンを持った。一つため息をつくと
「ハサミで短くしてからバリカンと考えていましたが、それだと危ないから、始めからバリカンでやります。動くと怪我をするから、大人しくしなさいね。」

 怖いよ!お母さん助けて!!心の中でそう叫んでいた。バリカンで今から丸坊主にされる。大切にしてきた髪がなくなってしまう。こんなの嘘だ!嫌だ!!

 大きなバリカンのスイッチが入れられる。カタカタと乾いた音を立てる。ヤダヤタヤダ!!と叫ぶが、頭を抑えられ、額にバリカンが吸い付くと、一気に頭頂部まで動かした-。

 
 バリバリと音を立てて、髪が刈られたのが分かった。その瞬間号泣した。声の限りに叫んだ。だが先生はバリカンを止めるどころか、次々に動かして髪を刈り取っていく。時々髪が引っかかって痛い。前髪を全部刈ると、次は横の髪も刈り始める。バリカンの音が耳の側で大きく響く。

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