『悪夢の喫茶店』
【一人目 香苗 ポニーテール】
東京にいた頃は、アルバイトは掃いて捨てるほどあった。だがいざ地方に来てみると、驚くほどアルバイトが少ない。家庭教師は地元の子で占められているし、学生バイト定番の飲食店自体が少ない。
そんな中、ようやく見つけたのがカフェでのアルバイト。カフェと言うよりも昭和の香りが残る喫茶店と言った方が正しいか。落ち着いた雰囲気、人の好さそうな女性マスター。ここでならやっていけると思った。まさかこれがあんなことになるとは、この時は夢にも思わなかった―。
仕事にも慣れてきた夏のある日のこと。常連客からクレームが入った。チャーハンに髪の毛が入っていたと言う。そんなことはないように髪はきちんと縛っていたが、その入っていた髪が明らかに私の物と判明した。
その場はマスターとともに平謝りをした。だが1週間後。またも同じ客から同様のクレームが入った。
一回目のクレームが入ってからは、髪を絶対に混入しないように注意していた。それなのにどうして…でも今回はマスターも助けてくれなかった。それどころか
「香苗ちゃん、常連の仙崎さんは美容師さんなのよ。謝罪も兼ねて髪を切ってもらいなさい。」
「ええっ!?そんなの嫌です!私長いのが好きなのに…。」
「でも二回もこんなことがあったから、さすがに目に見える形で謝罪してもらわないと困るわ。別にうちを辞めるのならそれでもいいけど。」
そう言われて言葉に詰まった。ここ以外はろくなバイトがない。割の良いバイトはもう埋まっている。ここを辞めたら今の生活が危うくなるのは目に見えていた。
「分かりました…髪を切ってもらいます…」そう言うしかなかった。
エプロン姿のまま、マスターと一緒に仙崎さんのお店に連れて行かれた。着いたのは、こじんまりとした美容院だった。今からここで髪を切られる…嫌で嫌でたまらない。どれぐらい切るかも聞いていないし…。やっぱりバイトを辞めますと、喉元まで出かかった。
「さあ、そこに座ってちょうだい。」仙崎さんに言われた。
「はい…あの、どれぐらい切るのですか?」
「そうねぇ。もう二度と髪の毛が入らないようにしてあげるわ。今度やったらさすがにクビになるでしょうからねぇ…。」少しニヤリとした。
ゾクッとした。どうされちゃうんだろう…バッサリ切られるのだろうか。お気に入りのポニーテールがなくなっちゃうのだろうか。
その間マスターは何やらゴソゴソとカメラのような物をセットしている。撮影でもするのだろうか?
だがそれよりも、仙崎さんが気になった。ケープを着け私の前に立つ。手にはハサミではない何かを持っている。まさかあれは…。ブーンとモーター音がする。そして額にその機械-バリカン-を当てて、一気に動かした。バリバリと音がし、前髪が刈り取られた。
「キャー!!な、何するんですか!?」
「何って?言ったしょ?髪の毛が入らないようにするって。ほら、動くと危ないわよ。」
そう言っている間にもバリカンをどんどん進めて行く。
「嘘…なんでこんなことに…もう止めて下さい…」
「こんなところで止めたらおかしいでしょ。前髪だけ坊主の子なんている?それに今、ヘアドネーションが流行っているでしょ?こんなに長い髪を寄付されたら喜ぶわよ。」
言葉が出てこなかった。坊主って…私丸坊主にされているんだ…もはや現実とは思えなかった。これは悪い夢だろう。きっと朝起きれば元通りになっているはず…。しかしそんな私の思いを見透かしてか
「まさかこれが夢だとでも思っているの?残念ながら現実よ。ほら、自慢のポニーテールよ。」
そう言って私の膝の上に髪束を乗せた。その瞬間、すべてを悟って涙が溢れてきた。
「うふふ、泣いちゃった。可愛いわね。綺麗にしてあげるから大丈夫よ。」
さらにバリカンで頭全体を刈られる。耳元で大きな機械音がする。冷たい刃の感触がリアルだ。髪がなくなっていく…いつから伸ばしていたんだっけ?痛くなくてよかった…男の人ってこうして坊主になっているんだ…
綺麗に伸ばしていた髪なのに、どうして何の遠慮もなしにバリカンなんかで刈られているんだろう。これって坊主にされちゃうのかな?どこか他人事のように考えるようになっていた。
マスターに代わった。「いいのよ泣いても。どれだけ泣こうが喚こうが、切った髪は元に戻らないわよ。」そう言いながらバリカンを進める。いつまでやるんだろう。そしてようやくバリカンを置くと、丸坊主になった女の子が映っていた。それを自分とは認められなかった。しかし床に落ちた大量の髪を見て、認識せざるを得なかった。
「あなたは頭の形がいいから、サービスしてあげるわ。」そう言って仙崎さんにシェービングクリームを塗られる。もはや抵抗する気もなくなっていた。サービス…なんだろう…もうどうでもいいや…。
剃刀で頭を剃られている。ゾリゾリという音が店内に響いている。ああ、私剃られているんだ…動いたら危ないよね…。
全てが終わり解放される時、こんなことを言われた。
「警察に訴えるならどうぞ。なんの証拠もないし、あなたの髪を切るところを動画に撮っておいたわ。これを拡散されたら恥ずかしくて大学になんか行けなくなるわよ。それでも良ければ好きにしなさい。」
どうやってアパートに帰ったか分からない。しばらくボーっとしていた。しかしふいに洗面所の鏡を見た時、自分に何が起きたのかが分かった。
「髪が…髪がない…なんで!どうして!!」
一晩中泣いた。これは悪い夢と思って寝たが、朝起きても髪はなかった。また涙が出てきた。
【マスターと仙崎】
私は思わず微笑んだ。うまくいった。大学生はまだ世間というものを知らない。こっそり香苗の髪を採取しておいて入れただけなのに、疑うことなどしない。
私は断髪フェチだ。女性では珍しいと言われる。断髪動画を観ているうちに、自分でもやりたいと思うようになっていた。そこで仙崎さんと綿密な計画を立てて臨んだ。
あんなに可愛い子の髪を丸坊主にした上に、ツルルツに剃るなんて、なんて素晴らしいのだろう。バリカンを入れる感触や泣き顔を思い出しては一人で慰めた。
動画を撮っておいたのは、脅すためともう一つ目的があった。断髪フェチのための上映会を開くことだ。
後日、ネットで髪フェチを集め上映会を行った。ただのカット動画ではなく強制的に可愛い子の髪を切る。それもスキンヘッドに。あちこちから歓声が上がり、DVDも驚くほど売れた。
早くも第二弾の開催を望む声が上がった。大盛況のうちに幕を閉じた。
【二人目 沙紀 ショートカット】 マスターの視点
二人目の獲物は、沙紀というショートカットがとても似合う子だ。彼女は家庭教師をしていたが、教え子が無事に高校に合格し、バイトがなくなってしまった。そこでうちを見つけたと話してくれた。
とても爽やかな子だった。しかもここに来る前はロングだったが、飲食店で働くからバッサリ切ったとも聞いた。
こんなに可愛いショートの子にバリカンを入れたら、どんな顔をするだろうか。DVDはどれだけ売れるだろうか。
香苗と同じ手で罠にかけ、仙崎さんの美容院と連行した。
沙紀にケープをかける。不安そうな顔をしている。これからどうされるんだろうと内心ビクビクしるのが伝わってくる。笑いをかみ殺し、動画撮影の準備をした。
今回も前髪から一気に刈ることにしていた。電気バリカンだけでは面白くないので、手バリカンを使うことにした。
仙崎さんはバレないように「ちょっと目を閉じてね」と言っておいてから、額に手バリカンを入れ、一気に頭頂部まで刈り上げた。前髪がごっそりなくなり、一部だけ坊主になった姿が鏡に映る―。
「イヤー!!!」
「坊主にするから大人しくしていてね。」
そう言って仙崎さんは次のバリカンを入れようとする。激しく抵抗したので、仕方なく椅子に紐で縛り、私が抑えつけて再びバリカンを入れる。
「動くと手元が狂ってハゲにしちゃうわよ!おとなしくしていなさい!」
癖のないショートカットの黒髪に次々と手バリカンを入れていく。カチカチ、ザクザクと音を立てて右半分を坊主にした。
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