見出し画像

ハル  「こうしている今もさ、こうしていている今も、きっと大人達は、 
     ぼくとGDの会話に耳を澄ませているんだろうね。ぼくの邪魔を
     するために。でもそれを逆手にとって大人を欺いてやるんだ。
    (動かなくなった母親に語り掛ける)・・・母さんもう死んだ?」
     ねぇ、GD。この死体、どう処理したらいいかな?」
GD  「心配する必要はない。汚れのない魂をもった肉体は、死んでも腐 
     敗はしない。 母親という存在は神聖さを帯びている。腐敗する要
     素はどこにも見あたら ない」
ハル  「(胸をなでおろして)よかった」

       GD退場。

ハル  「GDの言葉とは裏腹に、翌日から腐敗が始まった。そこには神聖  
     さの欠片も 見当たらなかった。三日目の朝には異様な水ぶくれが
     全身を覆い、五日目にはそれらが次々と破裂した。腐敗臭は忽ち
     隣人の知るところとなり、一週間後、ぼくは、駆けつけた若い警
     察官によって保護された。病院へ搬送されてからは、事実確認と
     精神鑑定が行われた。母親の死因は頭部強打による脳挫傷。この   
     事件は世間の注目を浴びた。母親の遺体に寄り添い続けた少年を
     マスコミは美談として伝えた。悪戯に実名が報道されたせいで、
     施設に送られた後は、日常的な虐めにあった。そして十六歳にな
     るのを待って外の世界へ飛び出した。ぼくは名前を変えなければ
     ならなかった。新しい人間として生きていく為にハルという名前
     を捨た」
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?