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サード・エイジ とは

「ピーター・ラスレット」 いま、なぜサード・エイジか

人間科学研究 8-2 2001小 田 利 勝
いま、なぜサード・エイジか 
昨年(2000)年の元日、たぶん午前中に放映されたテレビのニュース番組であと思う。が、小渕首相(当時)が年頭の挨拶の中で「サード・エイジ」という言葉を使ったのを耳にした。「えっ」とも「へー」とも思ったことを覚えている。その当時は、まだ、日本ではこの言葉はほとんど知られていなかったからである。どこで、どのようにして小渕首相がこの言葉を知ったのか、そして、その言葉をわたしが理解しているのと同じような意味で用いたのか興味を覚えた。そして、また、 「 一国の首相が年頭の挨拶で使うくらいだから サード・エイジ」はその年の新語として流行するかもしれないなどと思ったが、テレビも新聞もこの言葉に触れることはなかった。

その後しばらくして、株式会社オーディーエスの山口峻宏氏(1999)という方から研究室に電話があった。「サード・エイジ」という言葉を私が使っていることをウェッブ・サイトで知ったということであった。その社の社員が、インターネットで「サード・エイジ」を検索していたら、日本では私のもの(小田,1998)しかヒットしなかったという。電話で山口氏は、氏のほかに「サード・エイジ」という言葉を使っている人がいたことを驚いたような、喜んだような口調であった。そして、私が、いつから、どのような経緯で「サード・エイジ」を使うようになったかと聞かれたので、次のように返答した。

高齢期の問題をライフスキルの観点から研究している過程で手にした文献Walker,1996)から偶然に「サード・エイジ」という言葉に出会ったこと、この言葉がアメリカやヨーロッパでは 1970 年代から 80 年代にかけて一般に使われるようになり、現在ではよく
知られていて使われていること、「サード・エイジ」を鍵概念として高齢化問題を論じた
代表的な研究者と知られているのが歴史学者のラスレット(Peter Laslet)であり、10 数年前に「サード・エイジの出現」(The Emergence of the Third Age)という論文を発表し(Laslet, 1987)、その後、かれは、「人生の新しい地図」(A Fresh Map of Life)という著書で「サード・エイジ」に関する議論を発展させていること(Laslet, 1989, 1996)、インターネット上のウェッブ・サイトに商業ベースの「サード・エイジ」のページがあること(http://www.thirdage.com)、大学院の演習で Walker(1996)や Laslet(1996)の著作を取り上げたこと、市民向けの講演など機会あるごとに、「サード・エイジ」について触れていることなどを話した。
山口氏は、高齢期や高齢者を指す言葉としてこれまでとは異なる何かいい言葉はないかと考えていて「サード・エイジ」という言葉を思いついたということであった。そして、話の中で、小渕首相にも昨年(1999 年)の 12 月に氏のアイデアを伝えたという。小渕首相が使った「サード・エイジ」の出所(でどころ)はその辺りにありそうである。同じような時期に佐賀県の高齢対策室から「サード・エイジ」についての問い合わせメールが入ってきた。行政施策の中に「サード・エイジ」の概念を生かそうということのよ人間科学研究 8-2 2001 Copyright T.Oda-2-うであったが、行政レベルでのこうした動きはまだわずかである。
本稿では、「サード・エイジ」という言葉が何を指して使われているのか、そして、その言葉が登場してきた背景について触れながら、これからのサード・エイジの課題について若干の議論を試みたい。なお、本稿は、2000 年4月に神戸大学発達科学部において高齢化社会あるいは高齢者に関わる研究を手がけている研究者によって設立された「サード・エイジ研究会」(本誌所収の「サード・エイジ研究会(TAS)の発足とこれまでの研究報告」参照)の研究報告会(2000 9 年 月 18 日)で同じ題目で報告した内容に若干の加筆補正
をしたものである。「いま、なぜサード・エイジか」という、あまり学術的ではない題目を付けたのも、その研究会の名称に使われているサード・エイジという言葉が、  日本ではまだ、馴染みが薄いことと、この言葉が、これからの高齢化あるいは高齢者に関わる研究を進めていく上で有効な概念になるのではないか、という期待も込めて、このようなタイトルにした次第である。
1.サード・エイジの概念
ラスレット(Laslet,1996)によれば、The Third Age という言葉は、フランス語系あるいはスペイン語系の語句 Troisieme Age の英語表現である。この Troisieme Age という語句が最初に使われるようになったのは、1970 年代にフランスやスペイン、イタリアで創設されるようになった LesUniversites du Troisieme Age という名称においてである。そして、1981年7月の夜にケンブリッジ大学で最初に始められた同様の活動(組織・団体)を Universitiy
of the Third Age(U3A)と名付けたことから、The Third Age という言葉が英語圏の国々で一般化していった(1 。)
しかし、サード・エイジを日本語で表現しようとすると適当な言葉が見つからない。サード・エイジ(the third age)だけを日本語にそのまま置き換えれば、「第三期」や「三番目の時期」、「第三時代」ということになろうが、それでは何か不自然であり、それによって指示している内容が判然としなくなってしまいそうである。それが指示するところは、一生の過程の第三期目あるいは加齢過程の第三段階ということである。英語で表現すれば、the third age of the life course あるいは the third stage of aging ということになろうか。その意味では、「第三期年齢段階」と表記できそうである。そして、その期間にある人々をサード・エイジャー(the third ager)-これも、「第三期年齢層」と表記できそうである-と呼んでいる。しかし、そうした日本語表現では何かしっくりしない。そこで本稿では、他に適当な訳語も思いつかないので、とりあえずというか、あえてというか、サード・エイジとカタカナ書きにしておく。外来語のカタカナ書きを批判する向きもあるが、日本語にぴったりと合う言葉がないときには、無理に日本語で表現してわかりにくくするよりはカタカナという便利な表記法を生かすほうがよいであろう。 http://www2.kobe-u.ac.jp/~oda/3rdage.pdf

以下割愛


2022年11月08日

「ピーター・ラスレット」

家族形態の起源と社会構造の多様性

~進化シミュレーションが解き明かす環境要因、家族形態、社会構造の関係~東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻
2021 年 10 月 20 日.問い合わせ先:教授 金子 邦彦(かねこ くにひこ)

4.発表内容:人類学者たちはこれまで、世界各地の家族が配偶・親子・兄弟姉妹の関係などに関して多様な性質を持つことを示し、種々の家族形態を特徴付けてきた。特に前近代の農村社会の家族は、親子関係と兄弟姉妹関係について多様であることが知られている。親子の同居関係には、子供が結婚後すぐに親元を離れる核家族の場合と、子供が結婚後も親元に残る拡大家族の場合がある。また、兄弟姉妹の遺産分配の関係には、嫡子が独占的に相続する場合と、平等に分配される場合がある。この両者の関係に注目して、四つの基本的な家族形態が示されている。
すなわち、遺産分配が不平等な核家族である絶対核家族、平等な核家族である平等核家族、不平等な拡大家族である直系家族、平等な拡大家族である共同体家族である。

これらの四類型の地理的な分布も調べられており、絶対核家族はイギリスやオランダで、平等核家族はフランスやスペインで、直系家族は日本やドイツで、共同体家族は中国やロシアで観察されている。さらに、歴史人口学者などは家族形態に注目して歴史の進展を説明してきた。

特に、エマニュエル・トッドは家族形態と社会イデオロギーの関係を明らかにした。
そこでは、絶対核家族、平等核家族、直系家族、共同体家族のそれぞれが多い地域において、自由主義、自由平等主義、社会民主主義、共産主義のイデオロギーが栄えやすいことが論じられている。しかしながら、家族形態を規定する社会・生態的環境要因の分析は網羅的ではなく、家族形態と社会構造の相関についても説明は不十分であった。ここで、環境要因と家族レベル、社会レベルの性質の関係を統一的に説明する枠組みが求められている。

板尾と金子は人類学の報告に基づき、前近代農村社会では、家族単位で労働をすること、労働量を追加投入するほど労働量の増加に対する生産量の増加率が小さくなること(収穫逓減)、所有する富が多いほど子供の数が増えることなどに注目し、家族とその集合としての社会をモデル化した。それぞれの家族に、兄弟姉妹が親元で共同して生産する確率(すなわち拡大家族になる確率)と兄弟姉妹の間の遺産分配の不平等性を定める戦略パラメータを与え、これらのパラメータが世代交代の際にわずかな変異を伴って伝えられるとした。このモデルの進化シミュレーションを行うことで、社会内の利用可能な土地資源と、家族が生存に必要とする富という二つの環境要因に依存して、家族の戦略パラメータがいかに進化するか、またそれに伴って社会内の家族の所得分布がどのように変化するかを調べた。

シミュレーションの結果、土地資源が多い時に核家族が、少ない時に拡大家族が進化すること、生存に必要な富が多い時に平等な遺産分配が、少ない時に独占的な相続が進化することが明らかになった。利用可能な土地資源の多寡が農耕開始以来の期間により定まり、生存に必要な富の量が社会内の争いの頻度により定まり、争いの頻度が文明の極の近くで増大すると考えれば、ユーラシア大陸の周縁地域で核家族が見られ、オリエントや中国の文明の極の付近で平等な遺産分配が見られることが説明されるだろう。また、拡大家族が多い社会で貧困層が厚くなり、遺産分配が不平等な社会で富裕層が厚くなることも示された。貧困層が薄い地域で自由主義的な政策が、富裕層がさほど発達していない地域で平等主義的な政策が支持されやすいと考えれば、この結果は経済構造を介して、家族形態と社会イデオロギーの関係を説明する枠組みになることが期待される。(ただし、家族形態に応じてとるべき政策が自動的に定まると主張するわけではない。)さらに、これらの環境要因、家族形態、所得分布の関係について、世界 186 の社会に関する民族誌データベースを用いた統計解析により実証した。


https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400172517.pdf

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