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世界のEV市場制覇は誰か?

2023年04月05日記事

テスラと中国が組んだタッグの世界野望

解説:躍進の影にテスラあり、中国がEV大国になった背景とは?
MITテクノロジー記事 2023.04.04
中国はいまや、電気自動車(EV)の製造台数と購入台数のいずれにおいても世界的に群を抜いている。多額の政府補助金からバッテリー技術まで、中国がいかにしてEV業界のリーダーになったかを理解するためのキーポイントを解説する。
(持続可能エネルギー Annu KilpelainenHow did China come to dominate the world of electric cars?) by Zeyi Yang アーカイブページ 

事態の様相がほとんど知られることもないうちに、中国は電気自動車(EV)製造と購入において世界をリードするようになった。
しかもその勢いは衰えていない。過去2年間で中国内のEV年間販売台数は130万台から680万台に急成長し、2022年をもって中国は8年連続で世界最大のEV市場となった。これに比べて米国では、2022年のEV販売台数はわずか80万台である。
経験豊富な業界観測筋も中国の成長スピードには驚いている。輸送セクター専門のビジネスコンサルティング会社であるシノ・オート・インサイツ(Sino Auto Insights)のトゥ・ラ取締役は「常に現実が予測をはるかに上回ってきました」と語る。
中国がEV分野で優位を確立したことは、パンデミック下における中国の自動車産業の持続的成長につながっただけでなく、気候政策における世界的リーダーの一角となるための取り組みを後押しする結果となった。


Annu Kilpelainen

中国は具体的にどうやってEV大国になったのだろうか? 複数の専門家がMITテクノロジーレビューに語ったところによれば、EVの供給と需要の両方を高める上で、中国政府は長きにわたって重要な役割を演じ続けてきたという。

政府から莫大な補助金、税控除、調達契約、その他政策上のインセンティブが与えられたことで、中国内で多くのEVブランドが誕生し、中国の消費者のニーズをリアルタイムで満たせるような新技術の開発が続いている。その結果として若い世代の購入者を多数開拓できたのだ。
しかし中国EV市場の成長には、中国の政策以外の要素も絡んでくる。テスラ(Tesla)、中国のバッテリー技術研究者、および中国以外のアジア各地の消費者だ。

中国がEVへの投資を始めた時期とその理由EV分野へ本格的に参入する前の2000年代初頭、中国の自動車産業は下火だった。中国は従来型の内燃機関を使った自動車製造の大国ではあったものの、業界の上位に立つ国外メーカーと将来的に競争できるような国内ブランドは1つもなかった。
「そこで中国は、米国やドイツ、日本の老舗自動車メーカーが相手では、内燃機関エンジンのイノベーションで勝つことはできないと気づいたのです」とトゥは語る。ハイブリッド車の研究についても、初期はバッテリーをガソリンエンジンの補助として使う段階にあり、日本などの国がすでに先鞭をつけていた。つまり、ハイブリッド車での競争もできないということだ。
そうしたわけで中国政府は、すでに確立されたテクノロジーからは手を引き、全く新しい分野への投資を始めた。それがバッテリーだけで駆動する自動車だった。
リスクはこの上なく高かった。当時はゼネラルモーターズ(General Motors)やトヨタなどのブランドがEVを製造していたが、あくまでニッチな実験の域を出ず、わずか数年で製造が打ち切られるのが普通だった。ただし、潜在的な利益は莫大だった。自動車産業の重要な一角となりうる分野で、中国が優位に立てる可能性があったのだ。

一方、ガソリン車やハイブリッド車の製造に卓越した国にとっては、新しいタイプの自動車開発に向かうインセンティブが弱かった。たとえばハイブリッド車については、「日本は当時、すでにピークに達していたので、自動車産業の電化の必要性を理解できませんでした。

『日本企業はすでに40%も燃費がいい車を作れるのだから、他国が追いつくだけでも時間がかかるだろう』と考えたのです」、
と語るのは、非営利シンクタンクのインターナショナル・カウンシル・オン・クリーントランスポーテーション(ICCT:International Council on Clean Transportation)で上級政策アナリストを務めるヒ・ウェイだ。
さらに中国にとってEVは、深刻な大気汚染の緩和、輸入石油への依存度低減、2008年の金融危機後の経済再建など、他にも複数の大きな問題を解決できる可能性を秘めていた。中国政府にとってはウィンウィンの状況と思われた。
中国には最初から構造上の優位性があった。EV製造には異なるテクノロジーが関わるとはいえ、既存の自動車サプライチェーンも必要になる。そして中国のそれは比較的整っていた。ガソリン車工場を支えていた製造業の能力と安価な商品もまた、産声を上げたEV産業を支えるために転用できた。

こうして中国政府は、早くも2001年にEV関連テクノロジーへの投資へ踏み切った。この年、中国最高度の経済計画である第10次5カ年計画において、EV技術が優先すべき科学研究プロジェクトとして定められた。
そして2007年、ドイツのアウディで10年間勤務していた自動車エンジニアのワン・ガンが中国の科学技術部部長に就任したことで、EV産業には強い追い風が吹いた。ワンは大のEV好きで、テスラ初のEVモデル「ロードスター(Roadster)」が2008年に発売されると、その年に試乗している。今では、EVに国を挙げて取り組むという決断はワンの功績だとされている。それ以来、中国の経済計画においては、EV開発が常に優先されるようになった。
政府は具体的に何をしたのか?それは中国の経済システムの性質と密接に関わっている。中国政府は伸ばしたい産業にリソースを集中させることに非常に長けているのだ。最近では半導体に対して同じことをしている。
2009年からは、バスやタクシー、個人消費者向けの車両を生産するEV企業に対し、補助金の支給が始まった。この年の中国のEV販売台数は500台にも満たなかった。しかし資金流入が増えたことで、各企業は自社のモデルの改良に資金を投入し続けることができたのだ。同時に消費者も、自分用のEVを安価に購入できた。

2009年から2022年の間に、中国政府は2000億元(290億ドル)以上をEV関連の補助金や税控除に投じた。補助金制度は昨年末に正式に終了し、「デュアルクレジット」と呼ばれる市場志向のシステムに変更された。そして見込まれた効果はすでに出始めている。2022年に中国で販売されたEVは600万台を超えたが、これは世界全体のEV販売の半分以上を占めている。
その他にも政府は、調達契約を結ぶことで設立初期のEV企業を支援した。EVが消費者市場で受け入れられる前の2010年頃、中国は自らの巨大な公共交通システムに初期のEVを組み込んでいた。

戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)


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