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ピアノ調律師同士で考えたい

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同業者の方と一緒に考えたいことや、おすすめのグッズなどを紹介しています。
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#ピアノ

ピアノ調律師があらためて学ぶ「潤滑剤」

ピアノが快適に弾けるために大切なのが内部の部品がスムーズに動いて正確に戻ること。そのために欠かせない「潤滑剤」 僕だけかもしれないですが、調律師としても「ここにはこれを使うもの」「使ってみた結果これが良かった」と言う指示や経験頼りで、潤滑剤の成分や特性には意外と無頓着なままだったりします。 これじゃいけないなと、潤滑剤について改めてしっかりと知りたいと思いました。そして調べるほどに潤滑の重要性と難しさ、そしてピアノと言うものの特異性が浮き彫りになりました。 潤滑を通して

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専門家の見えているものとユーザーの見えているもの

ピアノの故障をお客さまに説明するときに、ピアノの内部を見てもらうことがあります。 ひとつの事象を説明するにも ・何のための部品なのか ・何の素材でできているのか ・本来はどうなっているものなのか ・今はどうなってしまっているのか ・どんな不都合があるのか ・どう直すのか ただでさえ前提条件からの説明が必要で、さらにピアノの中身は複雑なので…なるべくピンポイントに絞って説明しているつもりですが、うまく伝えられてないな〜と思うことがあります。 最近気づいた原因のひとつが、

誰かが手を入れないとピアノは整わない

ピアノと「時間」は切っても切れない関係です。 〈ピアノの演奏と言うのはいわゆる時間芸術〉 〈ピアノはメンテナンスをしない時間が長ければ長いほど悪くなっていく〉 〈新品のピアノが鳴るようになるためにも時間が必要〉 あたりまえすぎることですが、ふと思いました。そもそも「時間ってなんなんだろう?」 いろいろ調べてたどり着いたのはどうやら「エントロピー」という熱力学の法則が重要らしいこと。 なるほどエントロピーの観点でピアノを見ていくと色々と納得ができましたし、このイメー

ピアノ調律師にとっての生産性とはなにか

先日フリーランスの調律師で集まってはじめての勉強会をおこないました。 同年代で同じフリーランスと言う立場の仲間の存在はものすごくありがたいです。 その中で「生産性をあげるには?」という議題がありました。工具やデバイスの最適化、事務処理や移動のムダを省いたり、より効率的な働きができるようにしたいというのは共通の悩みです。 この議題は突き詰めたら沼なので今回はさらっと話す程度におわりましたが、それもこれも、なにを「生産」とするのかが多岐に渡っているからなんだと思います。

ピアノ調律師のための「錆を化学的に知る」

弦、フレーム、チューニングピン、キーピン、レール、スプーン、蝶板、ペダル...ピアノには多数の金属が使われています。そして金属とは切っても切れない「錆」 金属が錆びるのは酸化するからという程度の認識くらいで、ふと実は錆のメカニズムを正確には把握していないなあと言うことに気づきました。より的確で無駄のないメンテナンスをするためにも、こういったピアノに関する事象を化学的に知っておく必要があると最近は感じています。 と言うことで、こちらの本を読んでみました。 化学的な基礎知識

「好きを仕事に」の罠

・好きこそ物の上手なれ ・好きを仕事に! ・好きだから頑張れる ここ数年、これらの是非についてよく考えています。 個人的には「好きという感情」は、仕事においてはかなり危ういものだと思っています。 好きなことって不思議なもので、あるとき急にそんなに好きじゃなくなったり、むしろ嫌いになったりしますよね。もちろんさらに好きになることもありますが…とにかく波が激しい感情です。 好きを原動力にして働いていると、本来おまけであるはずの「自分の好きという感情を満たすこと」がメインの報

働くということを考えたら最初に入った会社のことを思い出した話

ピアノ調律師という仕事が珍しいのもあってか、仕事先でお子さんの進路のことでご相談されることがちょくちょくあります。軽々しくアドバイスはできませんが、さすがに18年くらい社会人をやっているので、ひとつの例として少しは参考になるかな?と思うと同時に、改めて自分の仕事についても考える機会になります。 今回はそんな“働く”において大事に思っていることのひとつを書いてみたいと思います。 この仕事ではいろいろな訪問先があります 僕の場合は基本的に一般家庭のピアノの調律がメインで、8

「なおす仕事」の闇

ピアノ調律師の仕事は、音程を直す、音色を直す、音が出ないのを直す、弾き心地を直す… かんたんに言えば【ピアノを直す仕事】です。 僕は基本的に調律するピアノの台数を1日2台までにしています。時間的なこととか、スケジュールの組みやすさなど理由はありますが、一番は単純に疲れでクオリティを落とさないため。1台たった2時間くらいの作業でも、調律をすると結構な疲労感があります。 もう疲れて何もできない〜と言うような疲れと言うよりも、今日はもう調律は無理だ...と言う疲れなので、身体

ネジ1本を替えるか悩む

ピアノの修理につきものの、オリジナルの部品をどこまで残すか問題。 音や弾きごごちに関わるものはなるべく元々の部品を残したいところですが、壊れていたり新しくしたほうが劇的に良くなるのであればどんどん交換した方が良いと思っています。 逆に悩むのが、壊れてもいないけど新しいものにしたらほんのちょっとだけ良くなる部品です。 主にこう言った古いピアノのマイナスネジなどなんですが。 機能的にもここがマイナスネジである必要はなくて、ただその時代主流だったという理由だけなのでこの部分

筋が通っている人はどこまでも筋が通っている

どのピアノの中にも調律カードと呼ばれるメンテナンス記録の紙が入っています。それぞれの調律師の、この紙への接し方を見るといろいろと勉強になることが多いです。 入っていた2枚の記録今回のピアノには2018年5月の記録が書かれた前任の調律師の名刺と、2018年5月〜2019年まで数回のその方のメンテ記録が書かれた調律カードの2枚が入っていました。 実はこの前任の方は亡くなってしまったとのことで、お客様から今回こちらへのご依頼がありました。 前任の方が最初に調律をした際には、こ

本当の定規は本当に良い

ピアノのメンテナンスで欠かせない道具。定規。 最近コクヨから発売された「本当の定規」人気で品薄みたいですね。 ふつうの定規 本当の定規 実は数年前のオンラインショップ限定発売のときから使っています。(ちょっとした自慢) 0.1mm〜0.2mmといえども、やはり目盛りの線に厚みがある以上どの位置で測るか、という問題は以前からありました。特に鍵盤の高さはシビアで、0.1mm以下の薄さの紙1枚を入れるか入れないか、と言う世界なので結構大きな問題です。 同じピアノで毎年鍵

「テセウスの船」的にピアノのことを考える

「テセウスの船」というパラドックスがあります。 ギリシア神話の英雄テセウスが乗っていた船。長年のあいだ木材の交換修理が繰り替えされ、多くの部品がオリジナルと置き換わったとき、今のテセウスの船と元々のテセウスの船は果たして同じ船と言えるのか?という問題。 言い換えるとモノのアイデンティティはどの部分に宿っているのか?ということでもあると思います。 ピアノはどうなんでしょう?切れた弦を張り替えたり、ちょっとした部品を交換しただけではもちろん元のピアノと変わらないと言えます。

「ピアノ調律の料金設定」について考えてみた

お客様から「調律料金安いですね!」と言われることが多いので、料金に対する考え方を少し。 調律料金のシステムは大きく分けて2パターン(1)前回の調律からの年数に関わらず一律料金 (2)基本料金+前回の調律からの年数によって追加料金(1年ごとに1,000〜2,000円程度) 当社では空き年数に関わらず一律料金なので、作業料金が安くなる理由はこの追加料金がかからないことが大きいです。(もちろん修理やタッチの調整などは状態とご希望に応じて別途かかります!) かと言って、別に安

ピアノ調律師がVESSEL 電ドラボールを1年間使ってみた

ピアノのメンテナンスをするためにはピアノを開けないといけないので、止めているネジを外すためにドライバーは欠かせない工具です。 ピアノを開けるためのネジは1台に10本程度とそんなに多くはないのですが、まあまあな長さがあるのでこれを全て手で回して外すのは結構大変です。 当たり前ですが外したら最後はつけないといけないですしね。 かと言ってそのためだけに大きな電動ドライバーを持ち歩くのも馬鹿らしいな〜という、絶妙な手間なんです。 そこでベッセルの「電ドラボール」 発売当初は