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白マドの灯り

八戸市美術館の白い壁面に映画を投影する”ゲリラ上映集団”がいるという。

日が落ち暗くなる頃に
その集団は現れる。

サッと仕掛け
終わるとサッと撤収していく。

街のバスや車、通りがかりの人達の声、足音。18:00のチャイムなど
日常の音そのままの状態で、屋外のオープンな気温を感じながらの映画鑑賞。
「うん。最高ー」

上映作品は古いものが多い。
それも味がある。

古く懐かしく笑える。
いつしか近くで鑑賞中の他人に話しかけてしまう。
まわりにはいつしか映画好きが集まり、
突然の会話の投げこみにも反応してくれる。

(お酒があると、なお会話が弾むかも)

今夜のゲリラ上映作品は”キングコング”

噂を聞きつけて17:00にスタンバイ。
まだ日は明るい。

17:15 八戸市美術館の人が投影用に使う机をガラガラと押してきた。

(おっ。準備か?)

いいね。
セッティングも見てみたかった。

ちょっと話しかけてみる。
仕掛け人ではない。ただ投影用の机と、電源ケーブルを貸しているだけだ、と言う。

投影が”冴える”ように、SMBC日興証券にあかりを消してもらっているそう。

投影場所に明かりが干渉しないように、向かいにある日興証券さんのご協力のもと、早めに明かりを消してもらっているそう。
皆さんのご協力あってイベントは成功するものなのだ。

この美術館の壁に映画が投影される

それにしても白壁の美術館。
よくもまぁ、映すのには完璧なロケーション。
ここに映せば通りに面した方に丸見えだし、バスや車の往路中にも目立つ。
まるで投影をするのを予測して設計されたかの様だ。

秋の名月も”ゲリラ上映”を盛り上げる

午前中は雨が降っていたが、
今は雨上がりの大空。
お月様も秋の名月で顔出し。
あの角度なら、お月様も”キングコング”を拝見できそう。

17:20  僕は見た。10分前に彼らは現れた。

手際よくプロジェクターをセッティング。
あっという間に17:30ピンで、上映開始だ。

古いロゴ感が、なぜか壁に映すとお洒落っぽい

1933年の作品「キングコング」初代の作品だ。

うっすらと昔の記憶をたどる。
(確か女の子を握ってビルにのぼっていたよな)

ストーリーはじめ。船で島を目指して進む一団。
うむ?ゴジラを思い出した。

キングコングって、放射線関係ないんだっけ?

物語が進んで、段々とおもいだす。

そっか、とある島にいったら、そこはキングコングの島。という流れか。
それにしても女優さん。めっちゃ美しい。
ハリウッドの女優さんって昔からこんなにも輝かしいのか。
キングコングが女優さんの服を剥ぎ取るところなんか、めっちゃエロス。

気温何度?寒くなってきた。

映画を観ていると通りがかりの人が声をかけてくる。
「へえー。こんな事やってるんですか!最高」
声をかけてくるのは若い人。
気になって足をとめる人はサラリーマンや、50代が多い気がする。

ここ八戸市には過去に映画館が15館!!もあったという。
信じられないが。
1955年の頃だそう。(人口14万人の都市に15館は人口に対してのスクリーン数が全国7位らしい)
それだけ八戸の人は映画が好きなはず。なのだ。
50代の人達はおそらく小さい頃に大人に連れられて映画館に行ってた口だろう。

昔の”キネマ旬報”の記事でとりあげられた

八戸市は映画の街だった。
”本のまち”を形成しつつ発展しているのは過去の映画文化があったからかも知れない。

1950年代の映画を検索してみると偉大な有名作品が多い。
•ローマの休日
•12人の怒れる男
•24の瞳
•白痴
•東京物語
など。

その点八戸市は流行りに乗った文化拠点だったのか。
そういえば八戸はもうひとつ。
”デコトラ”文化も根強い。
夜に豪華に輝く派手なトラック。全国紙に特集を組めるぐらい有名な話。
その着飾った車を一目見ようと他県からファンが八戸を訪れるというから、驚きだ。
そしてその流れを作ったのも”映画”だ。
トラック野郎シリーズ。

菅原文太、八代亜紀、千葉真一、田中邦衛など。
トラック野郎シリーズには有名人が目白押しだった。
この頃映画「ジョーズ」が大ヒット。
日本映画も同じく「トラック野郎」や「仁義なき戦い」が流行り、テレビでは「太陽にほえろ」と、凄まじくエネルギーみなぎる映像時代だった。

”デコトラ”に関してはあれだけの装飾を施しているのに仕事にはそのままの状態で使用していた。というから面白い。
パチンコ店の様に夜の八戸もデコトラが走るだけで夜の闇が明るい光飾で眩しかったのを想像する。

さて、そんなことを考えながらも”キングコング”はいよいよクライマックスの時間。

映画半ばからずっと大暴れ。
人を踏みつけるは、かじるは、投げ飛ばすは、胸を大太鼓のように鼓舞しては、荒れる。
終いには、エンパイアステートビルのてっぺんまで登り、有名なヘリコプターとの一戦。
元気良すぎよ。まさに”キングコング”。
英語でKing(王)=デンマーク語でKong(王)‥?
王=王じゃないか。
それになんでデンマーク?

”ゲリラ上映”が終わると少共に拍手でエンディングを送る。
殺しまくりは、あくまでエンターテイメントのひとつ。擬似体験して、スカッとする人間のホルモンが関係するらしい。
最近の映画”ジョンヴィック”200人斬りとか正にそうだね。スカッとホルモン分泌ムービー。

”ゲリラ上映集団”はキングコングを終えるとサッと後片付けをして、颯爽と消えた。
片付けをしながら色んな人に声をかけられていた。
「次はいつ?どこでやるの?」

機材を入れた大きなバックを肩にかけ
去る後ろ姿がカッコ良かった。

これやばい。
虜になりそう。

今回を機に
ゲリラ上映集団へ僕もお世話になる事にした。
屋外で映画を観たのは初めて。

影響力”大”。

これが”ゲリラ映画上映集団”
一撃で僕は心を奪われた。

暗い月明かりで見た建壁の映像は、確かにポッカリと壁に穴があいた白マドのように見えた。
これからもその白マドからは色々な”もの”が飛び出て僕らを驚かすことだろう。

夜の白マドに灯りがついたときは物語のはじまりである。
はじまり‥はじまり…

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