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家事にオンナは必要ないー幸田文と佐野洋子

#推薦図書 #家事 #PLANETSCLUB  

COVID-19予防対策の外出自粛生活は、ひきこもり気質のあるわたしにとってそれほど苦痛ではない。
映画館や交通機関が機能してなくて家で過ごすしかない時期は、後回しにして散らかり放題にした家の掃除と断捨離に励むのに丁度良い時間だった。
ついでにストックしてある食材を片付けるために、日々台所に向かう日々でもあった。

おひとりさまが長くなると、家事はただの生活技術でしかない。モテも異性も意識しない、日々の生活を営むために必要な技術だ。
モテのために家庭的なオンナアピールをしていたイタイ頃もあった。だけどひとり暮らしが長いため、家庭的より生活感が強く出ていたらしく全くモテにはつながらなかった。
恋愛に生活感は必要ない。
節約のため・気持ちを落ち着けるための家事は、家庭的ではない。
誰かのためにすることではなく自分のためにすることだから、母性や家庭など匂いもしなかった。

ずいぶん前に民放の人物伝記の番組で、幸田文を知った。父親は小説家の幸田露伴で、文学ではなく家事全般を仕込まれ、父親が他界した後作家になった女性の物語だった。
父親の幸田露伴は兄弟が多く貧しい家庭に育ったため、炊事洗濯など家事一切を切り盛りしていた。生まれ育った時代が幕末なので、混乱した世の中で生き延びるために家事に取り組んでいた。男も女も関係なく、生き延びるために必死だった。家事全般を教えるのは母親の役目だが、家庭の事情で父幸田露伴が娘幸田文に家事をしつけと共に仕込んだ。
父親から教わる家事は、道具を使いよく手入れすることから始まっていた。ハタキで強くほこりをはらうと「お嬢さん、イタイよう!」と嫌味を言われ、雑巾掛けの水を汲むと「お前は水の恐ろしさを知らない」と説教が始まる。
(幸田文 しつけ帖)
女らしさなどどこにもない、家事という生活技術の訓練風景だ。

佐野洋子は何気なく手に取ったエッセイ集で、「100万回生きた猫」の作者であることを知った。
佐野洋子のエッセイも、料理する場面が多いのに全く家庭的な匂いがしない。
わたしでも作れそうなレベルの料理から、レバーパテやサムゲタンなどレベルの高い料理まで幅広く美味しそうに綴られている。(役にたたない日々)
佐野洋子も幼い頃に戦後を迎え、貧しい家庭で母親に家事を仕込まれた。
洗濯物に洗い残しがあろうものなら、汚れた衣類を顔に押し付けられて母親に叱られたとエッセイに綴ってある。(シズコさん)
戦後の混乱の中、家事には家庭的な雰囲気は不必要で確実に家族が生活できることが一番大切だったのは伝わってくる。物が無い状況で、いかに家族が生き延びるかが優先順位だった。

この2人のエッセイには家事をする場面がよく出てくるが、家庭的な雰囲気もオンナらしさもない。ただ生活する日々が綴られているだけだ。
冷蔵庫の残り野菜全部をスライサーで薄切りにしてサラダを作る、あるいは鍋にぶち込んでスープを作る。お客をもてなし父親の夕食を料理をする姿は、まるで小料理屋の料理人のようだ。(小石川の家)
お裾分けの品は、百貨店で盛り付けたように美しくカゴに詰める。
万事手際がよく、家庭的など性を感じさせないのだ。

自粛中のわたしの家事だが、幸田文・佐野洋子の両人にはかなわない。
水拭きをすればバケツの周りを水浸しにし、掃除をすれば掃除機のヘッドをあちこちにぶつける。自分の怪しい味覚で食べられれば大丈夫という程度の料理をして食事にする。雑で適当な家事だが、やらないよりマシだろうという腕前だ。
ただ知識があれば、余分な道具も動作もいらない。
洗剤はあれこれ揃えなくても、洗濯用液体石鹸で風呂掃除ができる。重曹があれば焦げ付きや油汚れを落とすのに、必死で擦らなくてもいい。
ガラスは新聞紙で磨けば、キレイに汚れは落ちる。

料理はインターネットが大活躍する。
干し椎茸や昆布がいつまでも残っているので、味噌汁やスープの具にした。
水で戻せば大体何にでも使えるのが乾物だ。炒め物に入れてもいい。
麩はひき肉のつなぎに使うと、弾力のある肉団子やハンバーグになる。
パン粉をつなぎに使うと、独特の匂いがあるので多い量は使えない。
きな粉や小麦粉が全く減ってないので、サツマイモを買ってきて鬼まんじゅうを作る。
鬼まんじゅうはおやつだけじゃなく、朝ごはんにちょうどいい。
生ゴミを捨てるのが面倒だったので、このきっかけにコンポストを買った。
専用バケツに生ゴミと発酵促進剤を入れて放っておけば、勝手に肥料になる。
これでずいぶんゴミを出す労力と回数が減った。

ものを溜め込み捨てる気力がなくなった老親を、「転ぶよ、いらないものがあったらつまづいて転んで骨折するよ」と軽く脅して不用品回収の業者を利用した。
ものがゴロゴロあると掃除がしにくい、だから掃除をしないという悪循環を断ち切るために、不用品の処分はしなければならない。
古い家だが必要なものを探す労力が減ったので、いくらかは住みやすくなった。

幸田文と佐野洋子を知って、家事にオンナらしさや家庭的を求められて居心地が悪かったわたしは安心した。
洗練された生活を営むために必要な技術を持った2人の作家は、ずいぶんわたしの気持ちを楽にさせてくれた。
家事にモテも性も関係ない。
家事は自分が心地よく暮らすための生活技術だ。
おかげで自分の生活のために家事をするのが、楽しくて仕方がない。

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