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あの頃の笑いはもう戻らない

お笑いバラエティが好きだ。物心ついた時からずっとそうだった。インターネットが今ほど普及していなかった時代、家での楽しみといえば好きなテレビ番組を観ることだった。特に土曜の夜8時は毎週楽しみで仕方なかった。
その時に放送されていたお笑い番組といえばめちゃめちゃイケてる、通称めちゃイケだ。


数取団、爆裂お父さん、かま騒ぎ、日本一周の旅、抜き打ちテスト⋯⋯。

今みたいにながら見もなく、Xで実況するという習慣もなかった。テレビの前でめちゃイケだけを観ていた。
何度も腹を抱えて笑ったあの時の高揚感は今でも覚えている。

関取団にぶん投げられるめちゃイケメンバーを観て笑って、加藤家で引きずり回される女性タレントやアイドルの姿を見て笑って、芸人さんたちの危険なエピソードを観て笑った。



そんなワクワクしながら観ていためちゃイケもある時から惰性で観るようになっていった。
“コンプライアンス”という言葉が出てくるようになったあたりからだ。

私が好きなめちゃイケがこれまでやっていたお笑いレールからどんどん外れていき、いつしかゲストを迎えたナイナイの2人が美味しいお店を巡るだけの番組になっていった。
ガッカリした。

つまらなく感じてからも一応毎週観ていたが、それから最終回までの間、以前のように見入るということはなかった。



コンプライアンス意識が広まってもう10年くらいは経っているのだろうか。
めちゃイケが終了した後もお笑いバラエティは変わらず好きで、今もなお毎日何かしらの番組を再生する。しかし私はこの10年物足りなさを感じながら観ている。

女性タレントをめちゃくちゃに扱う笑いはNG。
出演者たちが話す暴露エピソードは当たり障りのない内容にシフトチェンジ。切れ味の鋭い言葉の応酬でお互い罵り合う場面も見かけなくなった。

マイルドに、ソフトに。
それが10年前から続いているバラエティ。




めちゃイケのことも記憶からほぼ消えて、昨今のテレビに生ぬるさを感じながら何年もずっと見続けていた訳だけど、先日ふとめちゃイケの存在を思い出した。

最後の数年間はあんまりだったが、その前までは長い間ずっと面白かったんだ。あの時の過激な笑いを見たらまた腹の底から笑えるかもとYouTubeで検索してみたらいくつかヒットした。


再生すると私が望んだ映像がそのままあった。

その回ではある女優さんがめちゃイケのADとして現れ、本当のADたちと一緒にプロデューサーから叱咤を受けていた。
「お前たちは気持ちがたるんでる」と、整列したADたちの頭を丸めた台本で叩いていき彼女にも手加減なく鉄槌を下す。
そこで笑いが湧き起こる。
その流れがその後何回か行われた。
その度に盛り上がる現場。


なんか違う。


私が求めていたお笑いのはずなのに。
顔が引き攣った。


この回に見覚えがあるのでおそらくリアルタイムで観た。当時の私のことだから、この画面の中のスタッフたちと同様に笑っていたに違いない。

女優さんはぐっと唇を噛み締めて笑いをこらえている様子だったので、彼女からしたらこの演出は前もって承諾済みだったのかもしれない。

そうだったとしても、人が人をはたくことで起きる笑いに賛同できなくなっていた。なんなら嫌悪感さえ生まれていた。


ぼんやりと不満を抱きながらも昨今のバラエティを観続けた結果、気付かない内に自分もその風潮に呑まれていったのだろうか。歳を重ねたからなのか。もしくは両方か。

とにかく分かったのは私はもう昔のように心の底からテレビを楽しめないという悲しい事実。
今の価値観に納得できず、過去の価値観にも同意できない。

板挟みの燻った気持ちを抱え込みながら今後も観続けるのだろう。
土曜の夜8時に毎週テレビの前でゲラゲラと笑っていたあの時間を懐かしみながら。

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