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【第11回】経験から学ぶ僕は東京タワーを怖いと思った。

スーツのズボンを止める黒ベルトを家に忘れてきた。

明日は内定者懇親会。服装はスーツと指定されている。しかもクールビズでジャケットを羽織らなくていいと言われているのだからスーツにベルトがないと明らかに不恰好になってしまうだろう。

しかし案ずることはない。ここは東京。大抵のものは何でも手に入る。

そう思うとカプセルホテルのカプセルの中で横になりながらスマホで「ベルト 買える場所」で検索していた。

ふむ。どうやら衣料品店、ドンキホーテや大きめの100円ショップでなら簡単に買えるらしい。さっそく宿泊先の近所の店を検索するとダイソーがヒットしたので散歩も兼ねて買いに行くことにした。

僕はこういったミスをよくする。要はドジなのだ。自分では気をつけているつもりなのだけど、どうしてもうっかりミスをしてしまうことがある。

けれども僕はドジであってバカじゃない。経験から学習しミスしてもいいように対策をしている。

例えば今回のように何か遠方で用事がある場合は出来るだけ前泊するようにしている。1日あれば何かミスがあったとしても何とかできることが多い。

今回もミスをしてしまったのだけれど、時間的にゆとりがあったから、そのミスを取り返すことができるチャンスが生まれたわけだ。

次はベルトを忘れないようにするにはどうしたらいいだろうと考えながら夜の東京を歩いているとふと建物と建物の間から背の高い赤い色の光が見えた。

そう、東京タワーである。

東京タワーといえば東京のシンボルだ。今でこそスカイツリーがあるけれども1958年(昭和33年)に完成以降シンボルであり続けたと思う。

特に僕が幼い頃、東京と聞くと、とりあえず東京タワーをイメージしていたような気がする。

そんな東京タワーだけれども僕は登ったことがない。近くにすら行ったことがないのだ。

記憶の限りだと肉眼で東京タワーを見たことは実は今回が初めてなのかもしれない。

なるほど、確かにシンボルなだけあって存在感あるな。

僕が見ていた場所から若干離れていたんだろうけど、遠目からもそう思ったのだ。

一度見てみると登ってみたいという感情が湧いてくる。スカイツリーは登ったことがあるのに。普通、順序が逆じゃないだろうか。

そうなると少し怖くなってきた。僕は経験から学ぶ男。東京タワーに関する何かあったとき、経験がなければ対処できないかもしれない。

じゃあ東京タワーに登っていなければ学べないこととは何だろうか。

例えば、東京タワーの展望台に設置されている(と思う)有料の双眼鏡を見たいと思った時に100円玉を持っていなかったという経験がなければ、娘を誘拐した誘拐犯に東京タワーの展望台の双眼鏡を覗きながら受け渡し場所を指示されていた場合100円玉ががないという大変なミスをしてしまうかもしれない。

そうなると怖い。登っていないことがものすごく怖くなった。

次、東京へ行くときに絶対に登らなきゃいけないだろう。これからの未来のために。

そういう決意をして僕はベルトを購入しカプセルホテルに帰ると眠りについた。

次の日の朝、のんびりしすぎて電車を逃してしまった。前泊して万全の準備をしたのにもかかわらず電車を逃してしまったわけだ。

結局タクシーを使って内定者懇親会の会場へ向かうことになった。いつ乗ったかもわからない久しぶりに乗るタクシーはあまりにも快適だった。

俺は経験から学ぶ男。

これしきのことでめげない…。

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