見出し画像

【第27回】海の日は何が何でも僕に恥をかかせる。

海の日。それは国民の祝日。国民の祝日に関する法律でも正式に祝日と定められている。

それなのに僕はゼミに出席するために大学へと自転車をこいでいた。

大学という場所は祝日なのに講義が開講されることがよくある。単位制を採用している学校としては宿命かもしれないけれども小中高までは祝日=学校の無い日であったから気分は憂鬱でしかないわけで。

別に祝日は休みにしなさいという法律はない。むしろ、それをしてしまうとコンビニなども全く使えなくて不便になってしまう。けれども僕の中にこびりつく固定観念が憂鬱を晴らしてはくれないのだ。

世間では「3連休に君は何をする?」みたいな報道があるけれども、そんな話題、僕達には全く関係ない。

けれどもそんな憂鬱を吹き飛ばすようなイベントが今日はあった。

ゼミの飲み会である。

僕は飲み会は好きではない。むしろ嫌いな方だ。お酒は嫌いじゃないけれども飲み会は相手に気を使う必要があるし、自分も酔いすぎて周りがよくわからなくなる。もともと気の利かないやつなので酔っ払うと、どうしようもなくなってしまう。だから気のおけない仲間とでしか酒を飲みたくないという気持ちはある。

そもそもゼミ生どうしの交流もそんなにないゼミに所属しているので酒を酌み交わしたこともない。加えて僕は実を言うとゼミのイベントに参加するのが初めてだったりするのだ。

けれども初めてだからこそ、少しワクワクする部分があった。しかもゼミに新しく入った3回生とも交流できる。初めてに対するワクワク感は、僕は好きだったりする。

昨年は忙しくゼミのイベントに全く参加していなかったし、なにより就活も終えてバイトもしていない今、刺激的なことがほとんどないのが現状である。

そうなると楽しかった、つまらなかった以前に普段と違う刺激のあるゼミの飲み会は楽しみな要素になっていたのだ。楽しめなくてもこのエッセイのネタにはなる。

いつものようにゼミに終えると一旦荷物を置きに家に帰り飲み会の時間を待つことにした。

ふと財布の中身を見ると会費が足りない。時刻は16時過ぎ。危ない危ない。お金をおろしに行かないと。

手数料を払いたくないので郵便局のATMへと向かった。田舎なので近所にファミマもないしゆうちょのATMも近くにない。ゆうちょ銀行から手数料無しで引き出そうと思えば郵便局のATMを使うしか無いのだ。

幸い祝日でも可動しているATMを僕は知っている。17時に閉まってしまうけど、まだ時間に余裕はある。飲み会は18時半に始まるから、ゆとりを持てるだろう。

程なくして郵便局にたどり着くと通帳をATMへと入れた。

慣れた手付きでATMを操作する。しかしお金は出てこない。というか引き出す金額の入力を受け付けないのだ。

なぜ?手順は何も間違っていないはずなのに。

慌てて僕は一度リセットしもう一度手順をやりなおす。

…………が、ダメ。

どうして?残高は十分足りているし、そもそもたとえ残高不足だとしても入力は受け付けるはずだ。

頭が真っ白になる。何も考えられない。ここでおろせなければ飲み会に出席できなくなってしまうのだ。借りることもできるけどさすがに初対面の後輩もいるのに、そんなかっこ悪いことは先輩としてできない。

ふとATMの画面に表示されている文字に気がついた。

※ATM内紙幣 一万円札 [100] 千円札 [0]

マジか。どうやらこのATM内の1000円札が1枚もないらしい。そりゃ引き出せないわけだ。

ふと僕の前でATMを操作していた人が隣に設置されたもう1つのATMからお金を引き出して郵便局から出ていったことを思い出した。

どうやらそういうことらしい。勝利を確信した僕は隣のATMへ。

もう1つのATMを操作してお金を引き出そうとしてみた。

…………が、ダメ。

先程と全く一緒の状況だ。何がどうなってんだ。今日が海の日で祝日だからか?

こんなことになるなら先週の金曜日に引き出しておけばよかった。俺のバカ野郎。

※ATM内紙幣 一万円札 [100] 千円札 [2]

自らの行いを悔やみながらATMの表示に目を向けると、どうやらATMの中に千円札が2枚残されているようだった。

よかった、と安堵し胸をなでおろす。幸い財布の中のお金とこの2千円を足せば会費に届くのだ。

僕はなんとか会費分の現金を手に入れATMを後にした。

こんなこともあるものだなと思う。今日が平日とは違う海の日だったからこういう状況に陥ったのかもしれない。危うく海の日に恥をかかされるところだった。

危ない状況を乗り越えられて本当に俺はラッキーだったなと思いながら僕は帰路へとついた。

これも日頃の行いがいいからかな。ちょっとした危機を乗り越えてごきげんな蝶に僕はなっていたと思う。

ふと気がつくと下校中の自転車に乗ったJKの集団が僕の前からやって来るのが見えた。

向こうが集団なので避けようと自転車のハンドルを傾ける。

すると突然世界がひっくり返った。

え?

何が起こったの?

見上げる先は空。梅雨も開けぬ曇り空が空に広がっている。

慌てて立ち上がると体のあちこちがズキズキと痛んだ。どうやら祝日で掲げられた国旗にぶつかってバランスを崩し自転車ごと転んでしまったようである。

JKの集団は僕のことを気にもとめず先に行ってしまったのだけれども、なんとなく恥ずかしいと思いながら自転車を起こそうと体を屈めた。

すると見える僕の足。なぜ見えるんだろう。

ビリビリに破れたズボンがそこにあると認識できたのはしばらく時間が経った後だった。

うあああああああああああああああああああああああああ。

どうやらコケたときに引っ掛けたせいで破れたみたいなのである。

最悪だ。あそこに国旗さえ掲揚されていなければこんなことにはならなかったのに。

ああ、どこまでも海の日は僕に恥をかかせたいらしい。

天を仰いだ僕はその後ユニクロへと走った。飲み会開始の18時半までには、まだ時間はあるのだ。きっとこれを乗り越えたら楽しい飲み会が待っている。

ちなみにユニクロのロールアップスリークオーターカーゴはマジでおすすめ。

みんなも買ってみよう!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。