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「俺の名は、ネオだ」 ―マトリックスよりⅢ―

映画マトリックスで、ネオ(演:キアヌ・リーヴス)がエージェント・スミス(演:ヒューゴ・ウィービング)に対し、言い放つ言葉である。

モーフィアス(演:ローレンス・フィッシュバーン)を救出し、マトリックスから現実世界へと帰還しようとするネオの前に、ホームレスを乗っ取り、出現したスミスが立ちはだかる。

エージェントは、直接、それも一対一で闘うには、あまりにも危険すぎる相手である。

地下鉄のホーム、出口へと至る階段へと目をやるネオ。しかし、彼は向き直り、スミスと対峙する。

「ネオ、早く逃げて。」

「何してるの。」

モニターを前に、ネオの取った行動に戸惑うトリニティ(演:キャリー=アン・モス )。その隣で、食い入る様に見つめるモーフィアスが言う。

「信じ始めたんだ。」

マカロニ・ウェスタンよろしく、激しい撃ち合いから始まり、互いに撃ち尽くすと格闘戦へ。奮戦するネオ。だが、エージェントであるスミスの圧倒的な強さの前に、絶体絶命の危機に。

スミスは自身がプログラムである利点を生かし、ネオを拘束、押さえこみ、そのまま共に列車に轢かせるという荒業に出る。鳴り響きだす、迫り来る列車の音。

「聞こえるかね。あれは避け難い運命の音だ。」

列車が、もう、すぐそこにまで迫る。

さよならだ、アンダーソン君

その言葉に、ネオが切り返す。

俺の名は、ネオだ……!

首元に回されていた腕をガッチリと掴み、渾身の力で跳躍、天井へとスミスを叩きつけると、一瞬の隙をついて自身は線路から脱出し、スミスを列車に轢かせ撃退するのであった。

シリーズを通してスミスは基本的に、ネオのことをマトリックスに囚われていた頃の名である「アンダーソン」で呼ぶ(ネオはハッカーでの二つ名、あだ名である)が、そこには人というものに対するある種のコンプレックスや羨望の様なものが在ることが、モーフィアスへの尋問(拷問)から見て取れる。エージェントはマトリックスの監視者であるが、そのことからマトリックスに拘束されている存在でもある。この時点でのスミスは、人類の拠点であるザイオンを壊滅させれば、エージェントとしての任務から解放され自由を得られると考えている。

「私は……この世界が大嫌いだ……!」

「自由になりたいのだよ……!」

ネオという名はネオ自身が付けた(様に見える)、マトリックスの支配から解放された証といえるものであり、アンダーソンという名はマトリックスによって割り当てられたマトリックスの支配による拘束の証といえるものなのだ。

スミスがネオに言い放つ「アンダーソン君」は、

「お前は私と同じ。所詮、マトリックスに囚われている身だ。」

宛がわれた『アンダーソンという識別番号』がお似合いだ。」

「お前だけ自由になるのは許せない。」

という意味になると考えている。それに対する「俺はネオだ」は、

「誰が何と言おうと、『ネオ』である自分が本当の自分である。」

「自分が自分で在ることができる自由を手にする。」

「『ネオ』である自分を手放さない。」

という意味になると考えている。

そして、このやり取りは、互いにもう一人の自分に対しての、奇妙な絆となってゆく―

※エージェントを初めマトリックス内のプログラムたちは、その世界の維持(与えられた役割)のため、基本的にマトリックスに拘束されている。役目を終えながらも、ソースへの還元を拒絶した一部の「反乱分子」たちがエグザイル、アノマリーとして存在、活動している。こういった者たちと覚醒した人だけが、マトリックスというエデンの園であり檻から抜け出したと言える。

しかし、これらも総て、プログラムされたものかもしれない―

ただ、それでも、今のこの時世にこそ観て欲しい作品であることに、変わりない。

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