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読書記録「レモンと殺人鬼」

目が逸らせなくなるような表紙に惹かれる。
黒髪女性の背景に敷き詰められた輪切りのレモン。
レモンの爽やかな黄色とは対象的な女性。
女性はこちらをじっと見つめているが、目の焦点はない。おそらく死んでいる。

「レモンと殺人鬼」は第21回 『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
同じ回で大賞を取った「名探偵のままでいて」を読んでいたので、文庫グランプリの本作も気になっていた。
受賞作って作者の持つ全てがぶつけているような熱量を感じる。
本作もそんなアツアツな熱量がぎゅっと詰まっていた。

この推理小説はふたつの謎が掛け合わされることで、複雑なストーリ―展開となっている。
ひとつめは、主人公の妹が殺されること。そんな妹が保険金殺人をしていたのではないかという疑惑。
ふたつめは、主人公の家族が死んでいくこと。過去に父を殺した男が、出所した後に行方不明になっているらしい。次に狙われるのは……。

どんでん返し好きには堪らないだろう。
残り数十ページに差し掛かり、謎解きに納得したところでどんでん返される。
バタバタ展開していくので駆け抜けて、ちょっと疲れるような読後感。読書でしか味わえないほどよい疲労感が残る。
ぬかりない設定が全部、このクライマックスのために張り巡らされていた。
このどんでん返しラッシュには、元気なときに読むことをオススメする。

最初は設定が多いのでちょっとぼんやりとした印象の物語だったけど、ラストを読んではっきりとした輪郭が見えた。

あと、文章がとても読みやすかった。たくさんの登場人物と設定で物語が展開されていくが、すらすらとテンポ良く読むことができた。
それに、「レモンと殺人鬼」はいつの時代に読んでも違和感のなさそうな物語の設定だと思う。読者自身それぞれの世界観に当てはめて読めそう。
現代の過度な流行りが取り入れられていないので、物語を物語として向き合うことが出来て、読みやすかった。
重たいテーマの割に読みやすかったことが印象的。

ふたつの掛け合わされる謎、学生時代の知り合いとの確執、ボランティア、自営業の洋食レストラン、校庭にあるレモンの木、主人公がやたらと気にする「虐げる側」と「虐げられる側」という考え方――。
それらが複雑に絡み、思いがけない方向へ展開していくのが気持ちよかった。

先日、note創作大賞のイベントとして開催されていた新川帆立さんの「ミステリー小説の書き方、教えてください。」を視聴した。新川帆立さんは月9でドラマ化もされた「元彼の遺言状」で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューした推理作家。
そのイベントの中で印象に残った話のひとつが「魅力的な謎を用意する」こと。魅力的な謎があるとそこを広告にして売りやすいとのこと。

「レモンと殺人鬼」が文庫グランプリを受賞した回の大賞受賞作は小西マサテルさんの「名探偵のままでいて」だった。
「認知症の祖父が名探偵」という魅力的な設定に惹かれて、私は購入した。(詳しくは私の読書記録を読んでみてね。)

イベントでのお話や自分自身の購買動機から、魅力的な謎や設定が大切なんだと知った頃に「レモンと殺人鬼」を読み始めた。
この小説は、たくさんキーワードが出てくるので、ひとつに絞るのがもったいなさそう。
どれかひとつキーワードを掲げるなら、となっても謎や設定が粒ぞろいなので選ぶことも難しそう……。

いろんな読み方があるなと学びながら読んだ小説だった。


▼読書記録「名探偵のままでいて」

▽読書記録

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