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歌集記録「願ったり叶わなかったり / 宇野なずき」

私がSNSに短歌用のアカウントを作った際、
まずは歌集を持っている知っている歌人を
フォローしました。
そのあと、オススメ欄に現れた『宇野なずき』さん。思わずフォローしちゃいました。

皮肉なような、暗いところ、
相手が気づかないような柔いライトを
当てているような短歌が大好きです。

自主制作歌集の「最初からやり直してください」「花で汚れる」を購入して、ますます宇野なずきさんの短歌の世界にハマっていきました。


将来の夢を描くには遅すぎるパレットの隅っこにある余白

願ったり叶わなかったり / カットフルーツ p.29

作中主体は、ようやくやりたいことが見つかったけれど、日々の生活ですでに余力がない状態なのでは、と受け取りました。
理由をつけて諦めようとしている。

また、キャンバスではなく「パレット」である。
「描く」が先に出てくるので、キャンバスに色をぶつけているような映像が浮かぼうとするけれど、カメラは手元の「パレット」を映す。

余白に焦点を合わせるか、今ある色に焦点を合わせるか。
まだ想像・空想の地点であり、夢として具体的に描かれるところまで達していないのではないか。
余白は少なくとも、パレットに今ある色を使って、キャンバスにぶつけていくしかない!
諦めそうになりそうなときに、思い出したい短歌です。

「パレットの隅っ / こにある余白」と「隅っこ」の途中で句が割れるので、声に出して読むと、本当の本当に「隅っっっこ」って感じ。

意味もなく光ってる星 きみはよくその無根拠で助けてくれた

願ったり叶わなかったり / 変身 p.41

助けてくれたことに感謝はしているけれど、それを返せていない作中主体はもどかしいのでは? と想像しました。
星は夜にあるものであり、暗い気分のときに救い上げてくれたのだろうと思う。
動物が交尾のために鳴くのとは違い、星が光ることはもともと無意味。意味を見出そうとすることが傲慢とも受け取れる。だからこそ、助けてくれたことを返せないもどかしさがあるのかな、と思う。

暗闇でひとつ輝く星から「きみ」へ、遠くからグッとカメラが寄る。

「星」と例えているので、手の届かない存在? アイドルなどかな、と想像しました。
「よく」助けてくれたとあるので、
「きみ」は今も無根拠に輝き続けているのかな。
「意味もなく」「無根拠」なことから、
作中主体と「きみ」には直接的な利害関係はないと思う。

生きたいよ、ずっと生きたい 不死鳥の炎で人魚を焼いて食べたりしたい

願ったり叶わなかったり / 複雑な手の形 p.110

強欲な不死希望。
不死鳥だけでなく、人魚まで食べるなんて……
「生きたい」を繰り返す悲痛な叫びから、不死になるための手順を計画的に並べているところがユーモラス。
死にスポットを当てた短歌が多いけれど、生への強欲っぷりが印象的な短歌。生を強くすることで、死の影も濃くなる。


今回の歌集「願ったり叶わなかったり」は
自主制作歌集から100首、書下ろし100首で構成されているそうです。

他の歌集やSNSで見かけた好きな歌も収録されていましたが、いちばん大好きな短歌が載っていなかった~
この短歌です。

愛はギャグ きみを毎日笑わせるために指輪を急に出すギャグ

最初からやり直してください / 愛 p.66

照れ隠しのプロポーズ。
一生に一度しかない最上の愛をギャグに置き換えちゃういじらしさ。
歌の中に、結婚 / 恋人 / プロポーズなどの
言葉を使わず1回の「愛」のみで愛の歌であることが分かる。

恋人はどんな顔して指輪を受け取るんだろう。
愛をギャグにしちゃうくらい照れ屋だから、プロポーズは期待していなかったと思う。
そこへ「急に」来たもんだから、予想していない分、嬉しくて嬉しくて、泣いちゃうんじゃないかな。

想像が膨らむ大好きな短歌です。


▽他の歌集記録
▼歌集記録「あかるい花束 / 岡本真帆」

▼歌集記録「悪友 / 榊原紘」


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