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歌集記録「悪友 / 榊原紘」

「初めて歌評書いてみた記事」になります。
お手柔らかにどうぞ。

歌集の感想を書くポイントとして、
いくつか短歌を引用し、
歌評を添えて感想とするのが良いようです。

いつもは受動的に読んでいるので、
どの短歌を選ぼうか能動的に読むのは初めてでした。
意識的に想像をしながら、呟く。
いつもとは違う歌集の向き合い方ができました。

また、歌評を書くことで他者の短歌に深く潜れる気がします。


さて、「推し短歌」をご存知でしょうか。

推しへの愛を短歌にしたためる。

しかし推しへの愛を短歌に昇華するには、どうしたら良いのだろう。
そこで『推し短歌入門』。
短歌の基本的な技術から、推しへの愛をどう表現するか、そして他者の短歌をどう読むか

歌評についての解説があり……
自分もここまで深く短歌に潜ってみたい!
と、挑戦してみることに。

そこで、まずは『推し短歌入門』の著者・榊原紘さんの第一歌集『悪友』にて歌評に挑戦してみます!

全体を通して、行間や空想的な描写より、具体的な描写で感情を共有するような短歌が多い印象の歌集でした。
でも、その日によって何を感じ取るのか変わりそう。

『推し短歌入門』に歌評を書くポイントとして、以下のように整理されています。

  1. 意味

  2. 構造

  3. 表記

  4. 韻律

構造や韻律など技術的なポイントを挙げられるか分かりませんが……
一読して好きだな、と思った短歌を「なぜ好きなのか?」「なぜよいと感じたのか?」に注目して歌評を書いてみます。


好きだったスープは今も好きなんだ社会に出ても平気でごめん

悪友/強くてニューゲームp.91

社会に出ることで変わっていく生活や好みが作中主体は変わらなかった、それを相手に謝っている。
謝っているのは、変わる人が多いから。
環境が大きく変化するところで好みが変わらない作中主体は精神的に強く、たくましい人物だと思う。羨ましい。

そして、「スープ」というチョイス。
人による好みを表現するものとして、
漫画や音楽ではなく、食なら他に揚げ物などと表現しても良さそうなところで「スープ」を選んでいる。

そもそもスープって種類によってそんなに好き嫌いが分かれるものなのでしょうか……。
そんなスープひとつにも、きちんとこだわりがある作中主体。

3句目までは「好きなものが好き」というごく当たり前のことを言っているけれど、最後の「ごめん」でハッとする構成になっていて面白い。
また、この歌にとって重要な「スープ」と「好き」のみにおいて母音が“u”であるため、この単語により強い印象が表現されるのだと感じました。

合鍵を渡した意味がまるでなくおにぎりのようにきみが待ってた

悪友/短い脚立p.105

合鍵を渡すのは、信頼した関係であると考えられるが、相手は合鍵を使わなかった。
また、『きみ』の待つ姿は「おにぎり」に例えられている。
両手を使ってぎゅっと握るおにぎりは、愛しい例えだと思う。
ぎゅっと縮こまって待っている様子が浮かぶ。
「まるでなく」のため、きっぱり拒否しているんだろう、と読んだ。

そして「おにぎりのように」で可愛らしい描写だけれど、合鍵も使わずに縮こまって待っている様子は、すごくシンとした寂しい空間なのだろうな、と感じた。
描写と空間のギャップが面白い。

『i』が意図的に使われているのでしょうか。
この歌のキーワードとなる言葉の母音を抽出してみると「合鍵(aiai)」「意味(ii)」「おにぎり(oiii)」「きみ(ii)」となる。
『i』がリズム的に続くので、口に出すと心地よい歌。
そして『i』なので、にっこりしている口にさせられる。
これも、この歌の世界とのギャップができる。

エスキースにずっとあなたの幽霊がいたのにこんな厚い白波

悪友/幽霊とスノードームp.109

「エスキース」は、エスキース帳=絵の練習帳として受け止めました。
絵を描く練習としてデッサンをしたり、本番前の構図を決めたりすることに使用するイメージ。
そんなエスキース帳に『あなた』が描かれていた。

『あなた』の「幽霊」であることから、『あなた』は今はもう会えない人だと推測します。

五句目の「厚い白波」は分厚いエスキース帳をパラパラめくっている様子。
エスキース帳は紙が薄いので、パラパラする時に起きる、ふわっとした、波が押し寄せる感じにも共感します。

作中主体が使い終わってしばらく経つエスキース帳に、もう会うことのない『あなた』が描かれていた様子を想像しました。
もう戻れない、でもそこにある確かな像の情景を、切なく感じます。

エスキス、と表現しても良いところを「エスキース」で初句6文字となっています。
初句の滞空時間が延びることで、「あなたの幽霊」に長い間、気が付けていなかったことの暗示かな、と受け取りました。
加えて「エスキース」と伸ばすことで、エスキース帳の厚さを感じます。

そして、この歌の母音に注目すると「エスキース(eui-u)」と「幽霊(uuei)」のみ『e』がいます。
この2つの単語が、この歌で強調されているものだと受け取りました。


私は、短歌入門書を2冊持っています。
『推し短歌入門/榊原紘』と『天才による凡人のための短歌教室/木下龍也』。
2冊を比較すると、前者は詠む対象を「推し」と前提して技術的な詠みかた、その他に歌評や歌会など他者との関わりかた指南。
後者は短歌のアイディアの見つけかたが中心になっています。
歌集はもちろん、それぞれの歌人の個性が弾けていますが、短歌入門書ひとつとっても何がテーマなのか違っていて面白い。

歌評を書いてみて、
誰かにとって、潜りがいがあるような短歌が詠めたら最高だな、と思うのでした。

そして、きちんと読み込むことで、
その歌が更に好きになれる楽しい遊びだと思うのでした。

また次回。別の歌集に挑戦します。

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