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読書記録「四日間家族」

終始ヒリヒリしていて、安心できる時がないようなスピード感のある小説だった。ミステリー小説というよりは、サスペンス小説に分類されるのかな。
映画を見たような満ち足りた読後感。

最初の一文がこちら。

室内灯に照らされた車内はじめじめと湿っぽく、古い機械油のような刺激臭が漂っている。

四日間家族/川瀬七緒

初っ端から不穏だ。
「じめじめ」で「湿っぽい」「古い」「機械油」に加えて「刺激臭」。
一文に不穏が詰まっている。最悪が待っていそうな一文。

集団自殺のために集まった四人が、山奥で赤ん坊が捨てられていることを発見する。
最後の人助けだと四人は赤ん坊を保護するが、赤ん坊の母親を名乗る女がSNSに動画を投稿する。赤ん坊誘拐の汚名を着せられた四人はSNSで大炎上。
四人の逃走劇の行方は。

集団自殺を図る主人公たちにもそれぞれ最悪な理由がある。
経営していた会社が倒産していたり、コロナ禍にも関わらず営業していたスナックでクラスターが発生したことで炎上したり、はたまた田舎専門サークルクラッシャーだったり、と。
共感したくないな〜と思うようなキャラクターの魅力の描かれ方が繊細で、つい応援したくなってしまう。
息つく間もないような展開に、五人目になったような気分でハラハラする。
作中ではコロナ禍が落ち着いて、寒い時期でもないようなのでちょうど現在が舞台になっているのだろうか。

自分のために生きることができなくなっても、他人のためになら生きていけることがある。小説を読みながら、そんなことを考えた。

川瀬七緒先生の作品は好きでよく読む。
「法医昆虫学捜査官シリーズ」や「仕立屋探偵シリーズ」が好きで、その圧倒的知識量に裏付けされる謎解きのゾクゾクする感じが堪らない。
「四日間家族」だとSNSの炎上方法以外に、ボーイスカウトの知識が出てくる。ボーイスカウトって階級があるのか、とか全然知らなかった私にも、川瀬七緒先生の小説はさまざまな色の光を差し込んでくれる。

「法医昆虫学捜査官シリーズ」にはシリーズ名の通り、虫が登場する。
その虫の表現があまりにも想像できてしまい読むのを諦めそうになったことがある。
(学生の頃に虫のリアル感に耐えられなくて一度諦めたことがあるレベルである。
大人になってからは読み直すことができた。想像力が雑になってしまったんかな……。)

本作もそのリアル感を感じる。リアルな感じにドキドキする。
SNSの炎上にヒリヒリする空気感や置き配を隠れて待つときの焦燥感。
映画のような臨場感を小説で味わえるなんて幸せ。
私は通勤時間の合間に読んでいたが、一気読みでスリルを駆け抜けたかったような気持ちもある。

やっぱりこの人が書くリアルな質感の虜だな〜と再認識しました。


▼「法医昆虫学捜査官シリーズ」の「メビウスの守護者」を挙げている

自分の書いたnoteを探したが、「うらんぼんの夜」の読書記録がない!
田舎のずっしりとした風習を絡めたサスペンス小説で、こちらもめちゃくちゃ好きだった。ラストの方は、ヒ〜〜〜と空気を漏らしながら一気読みした。
読み終わってから表紙を見てまたヒ〜〜〜となるくらい。

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