読書記録「いつまでもショパン」

さよならドビュッシー」から続く『岬洋介シリーズ』の3作目にあたるのが「いつまでもショパン」です。

物語は世界規模へ。

今までの「さよならドビュッシー」や「おやすみラフマニノフ」は舞台が日本なので、ピアノ曲が分からなくても物語が分かるだろうと安心していた。

今作は日本を飛び出る。
舞台はポーランド!

今まで、日本を飛び出た推理小説って読んだことがなかった。
シリーズなのでとりあえず手に取ったけど、どうなんだろう…と思ったけど杞憂でした。

特に、文化や音楽に対する価値観などが出てきたらに共感できるだろうか、と思っていたけど、主人公であるヤン(18歳青年)の味方になりながら読んだ。

何も知らず読んだ方が巧妙さにゾクゾクするので、未読の方は下のあらすじを飛ばしてください。

ポーランドで開催されるショパン・コンクールに参加するヤン・ステファンス。18歳、ステファンス家の期待の星である。
ショパン・コンクールの会場で死体が見つかる。手の指10本が切断されている、殺人事件だった。
さらに会場周辺でテロが多発する。テロリストは本職から通称"ピアニスト"と呼ばれていた――。
そしてヤンは、同じくショパン・コンクールに出場する岬洋介と出会う。

冒頭、ポーランド大統領がテロに巻き込まれるシーンから始まる。
これが音楽の物語にどう関わってくるんだろう、と頭の片隅に置きながら読み進めると、ショパン・コンクールの会場でテロリスト"ピアニスト"による殺人が行われる。

そのころには、父親から一家の期待の星だとプレッシャーをかけられるヤンに共感してしまっているので、どうにかコンクールが無事に開催されるように、ヤンが無事でありますように、と祈りながら読み進めることになる。

コンクールの優勝を目指して各国から集まったコンテスタントにもそれぞれ事情がある。
コンテスタントひとりひとり、応援したくなる。
やっぱり岬洋介に優勝してほしいけれど、主人公・ヤンの父親とのやり取りを読むと、主人公を応援したくなる気持ち。
軍人一家からピアニストとして成長したアメリカのコンテスタント・オルソンも魅力的。

テロのシーンが辛い。
想像させる描写が如何なく発揮されていて、胸が詰まる。
無事でありますように、を一行でひっくり返してくる。

ピアノの演奏シーンがまた、美しく表現されている。
この奏者はこう表現し、また別の奏者はこう表現した、と1曲におけるピアノタッチの表現に惚れ惚れする。
文章で音楽を想像するのは、他ではできない奥深さですね。

そして、岬洋介のピアノのすごさが表現される、ラストの美しさ。


また、本編の後に「間奏曲」として
前作「おやすみラフマニノフ」の主人公たちの後日譚が収録されている。
市民コンサートのゲスト演奏に呼ばれた主人公・晶とクセのある仲間たち。

主人公たちの日常を読めるだけでもありがたいのに、さすが推理作家、短編の中にも謎を織り込んでくる。
作者のファンサービスがすごい…!!

世界×コンクール×主人公の成長×ミステリー、さらに前作も掛け合わされて読み応えのある1冊でした。


▼読書記録「さよならドビュッシー」

▼読書記録「おやすみラフマニノフ」



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