三島由紀夫の古典論が読めない話
こんにちは、にかです。
以前何かの記事で、「三島由紀夫は自分の好きな古典の話をしだすと止まらなくなり、はちゃめちゃに難しいことを言いまくっちゃう」みたいなことを書きましたが、今回は三島由紀夫先生の古典論の文書をいくつか断片的に見てみましょう。
まずは三島由紀夫の古典論といえばコレ。『王朝心理文学小史』。以下、冒頭部分です。試しに読んでみてください。
さてさて...初っ端から古今和歌集の序文の引用という、なんともおしゃれな手を使ってきました。そして序文に入ります。
さてと...今まで泰西の文学史は思潮の推移によってのみその系列を窺い(ふむ...?)、甚だしいのはロマン主義しからずんば自然主義という風な杓子定規の分類に安んずるものがすくなくなく(はあ)、また一方国文学史には、皮相の形式ばかりにかかづらったり単に大雑把な時代思想で個々の文学の価値を決定したりする類がおおかったのである。(はあ)
ま、今までの文学史って思想の移り変わりにだけ注目してるし、なんとか主義みたいな形に当てはめてばっかりで、国文学史もそんな感じだよね。みたいなことでしょうか。三島くんが書くとこんなにも堅苦しくなっちゃうんですね。
しかしさすがの三島由紀夫先生、ゆっくり読めばなんとなく意味がわかります。あとやっぱり文章が丁寧で綺麗ですね。
しかもなんとこれ、16歳の三島由紀夫少年が書いたんですから驚きです。16歳...。
次は、ずっと後に書かれた古典論です(複数の評論文から引用します)。
亡くなる数年前の43歳〜45歳の時に書かれました。十分に成熟し切った三島由紀夫くん、どんな評論を見せてくれるのでしょうか。
『古今集と新古今集』至ってシンプルなタイトルです。そして冒頭を読むに...
わ、わかりやすい❗️はいはいはいこの文体でいいんですよ評論は!小説が硬いのはいいんですけど、評論までも硬いと読んでて疲れちゃうのでね。
しかし、安心していた矢先、すごいエピソードが入ってきました。
「うーん、大東亜戦争末期についに神風が吹かなかった、情念が天を動かし得なかったことは、詩にとって大きな問題だけど、その根源はどこにあるのかな?」とかいうなんだかよくわからん質問に対して、ただちに三島くんは『それは古今和歌集の紀貫之の序の「力をも入れずして天地を動かし」だね。(キリッ)』とキモい即答をしてしまいます。わかったから直ちに答えたこと強調しなくていいよ。
まあにわかには信じ難いですが、三島先生は普通のインタビューとかでもあらゆる古典から平気で引用するので、このエピソードは多分実話だと思います。
僕は中途半端な知識しかないくせに衒学的になる人がとても嫌いですが、ここまで教養と才能のある人のイキり(?)は、読んでいて気持ちいいです。実りすぎて茎まで太くなってしまった稲穂、という感じでしょうか(?)。そんな人まだ三島くんくらいしかみたことないです。
次はちょっと厳しいお言葉です。近頃の日本人は、古典がそのまま読めないで、『現代語訳』みたいな本出してるの意味わからん!というくだりです。
『井原西鶴や近松門左衛門が原文ですらすら読めないでどうするのだ!雨月物語なんて子供でも読めるはずなのにね(笑)。歌舞伎の台本なんて読めないわけなくない?(笑)』とのことです。
↑現代語訳された古典とかを読んで、読者が「イカス!」「最高ね!」みたいな俗語流行語で評価されたら最悪だ、と言ってます。今で言うなんでもかんでもエモいで済ますあれですね。
エモいなんて言葉を三島くんがみたらどんな文章を書くのか、見てみたいです。そんな古典はさっさと滅びてしまうがいい、らしいです。。。
しかしまあ三島由紀夫くんは古典くらい原文で読めて当たり前だよね?と本気思っていたようで、その証拠に古典論でもこんなところがあります。
日本書紀のセリフをまさかのそのまま漢文で引用し出しました。なんだこれ。三島由紀夫先生にとってみれば、「いや〜僕の読者ならこれくらいの漢文当然読めるよね?ま、一応念のために必要ないとは思うけど、慣れない人のために返り点だけつけといてあげたよ😅笑」って感じなんでしょう。
こんなレベルにとどまりません。
三島くん、盛り上がってきちゃったんでしょうか、万葉集から突然10首以上のお気に入りの詩を引用し出します。
もちろん読んで理解できる前提なので、詩そのものの解説はありません。
三島くんの解釈はもちろんあります。が...
ゾ、ゾーンに入っておられる。。夢中になりすぎて改行も忘れちゃってます。呼吸してください。正直なんの話をしているのか全くわかりません。
とまあ後半は無限の引用にひたすら三島くんの解釈や古典論が続きます。これだけで文庫本一冊分つづくんですから、恐ろしいです。しかも三島夫人曰く、本人はこういった文書をすらすら書いたと言うんですから、本当頭の中どうなってるんですかね。。。
あらゆる古典の引用に、仏教や儒教思想から(注: 三島先生は仏教や儒教に異常に詳しかった)、初代からの天皇論、世界大戦から戦後の民主主義に至るまでをも語り尽くした文学論。残念ながら全て読めていません。いつか読める日が来るといいな。。。
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