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【美術・アート系のブックリスト】福井安紀著『職業は専業画家』誠文堂新光社

 編集部のSが、アートソムリエの山本冬彦さん絶賛と聞きつけて取り寄せた一冊。
 20年間、絵画を制作しその販売収益だけで生活してきた画家が、「専業の絵描き」という生き方ができるように後進のために書いた本。展示の仕方、値段のつけ方、販売、接客、芳名帳に名前と住所を書いてもらう方法、礼状の書き方までさまざまな方法を披露する稀有な本。サブタイトルに「無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法」とある。
 著者は20歳から個展を始め、会社勤めを経験したあと30歳で退職して20年間は専業画家として活動してきた。公募展に出さない無所属画家であり、特定の企画画廊とも契約せず、貸し画廊を中心に自分で作品価格もつけて販売してきた。また出会った画家のほとんどが兼業で、絵だけで生活していないことに衝撃をうけて、情報交換の場をつくり、実際にチームで制作するシステムも作ったという。家族もいて、奥さんはほぼ専業主婦、娘さんも立派に育てたというから、仙人のような生活というわけでもない。

 画家による画家のための実践的なアドバイスであり、貴重。私自身【アーティストになるための武器】 と題して、若い画家志望者のためのレクチャーをまとめているが、多くの場面で意見が共通する。列挙すると以下。
・絵で生活することを諦めてはいけない
・(グループ展ではなく)画家の主戦場は個展
・個展には必ず在廊する
・展覧会は同窓会の場ではない
・名刺に「絵画の注文を受けています」など自分ができることを書く
・出会いが大切
・画廊に見つけてもらうことが大事
・人間力が大事
といったところか。

私と意見が異なるのは、この方が
・自分からは売り込まない
・メジャーでなく、インディーズのトップになる
・貸し画廊をメインに活動している
というくらい。これは意見の相違というより、目指すアーティスト像の選択の違いなので、良し悪しではない。

また勉強になったのは、
・人は歴史を背負った作家を応援したくなる
・一作目は作品、二作目からは作家を買ってくださる
という2つ。これは卓見だと思う。

 画家志望の人はぜひ読んだほうがいい。特に将来を不安に思っている学生は読むと希望が持てるはず。

 もうひとつ。うまくいかないときはいろいろな人に相談したほうがいいとあり、正面から重く相談することを薦めている。「相談も本気でないと本気の答えはない」からとのこと。全くその通り。私も同じ内容の質問でも、訊き方が真剣ならば真剣に答えるが、「ことのついでに聞いておこう」という程度の訊き方をされた場合はそれなりにしか答えない。画廊でよく聞かれる質問に「なにか面白い展覧会はありますか?」と「いい話ない?」というものがある。どちらに対しても、訊き方いかんで答え方も変わる。「これからどうすればいいでしょう?」という画家志望者の質問はたいてい真剣なので、たいてい真剣に答えているけども。

 ところで、この方は私と同年齢。50歳になると自分の人生を振り返って後進に伝えたくなるんだろうなあ、と妙な感慨をもった次第。

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