早朝の小旅行|エッセイ

楽しみがある日は不思議と早朝に起きるのが苦痛でなくなる。

数日前に購入した新品のクロスバイクでサイクリングに出掛けることが楽しみでたまらず、もぞもぞしながら眠り、5時前には目覚めてしまった。

チーズトーストと珈琲という朝食を済ませ、顔を洗ったりして素早く準備をした。部屋に大切に保管してある自転車を外に出してまだ暗いに街へと飛び出した。

冬の早朝。空気は冷たく、毛穴から少しずつ体内に入りこみ体温を下げる。オートバイに乗っていれば、この冷気にただやられるばかりなのだが、自転車に乗っていると運動の効果によって体は徐々に温まっていく。

どうして早朝に自転車に乗るのか。まずは交通量が少ない時間帯に走りたいからだろう。これは数週間前に何の変哲もない自転車(ホームセンターで買った7段変速のクロスバイク)で八王子から強羅まで行った時に学んだ術であり、自動車が走る公道で交通量が多くなると走りづらいだけでなく、事故の危険性も高まるので出来るだけ自動車の台数が少ない方がよいと思ったからだ。これはあくまでも現実的な理由であるが、早朝に走るのには他にも理由というか早朝でしか味わえないものもあると思うからだ。

それは澄み切った空気と朝日の綺麗さである。誰もいない、車も走っていない早朝は空気が透き通っている気がする。進んで呼吸をしたくなる。特に、最近では新型コロナウイルス感染症の拡大によってどこにいってもマスクを着用しなければならないので、思いっきり綺麗な空気を吸えることにより有り難みを感じる。

そして朝日の綺麗さ、エネルギーに満ちている有様は地球という惑星で生を得たことに感謝したくなる。一日の始まりが特別で素晴らしいことなのだと実感できる。

八王子市から坂を越えてあきる野市へ、そしてさらに道を進んでいき福生市を通過していった。途中で信号待ちをしている時に散歩中の柴犬が僕に話しかけてきた。

「朝からサイクリングですか?」
「ええ、それにしても気持ちのいい朝ですね」
「そうですね、くれぐれも事故には気を付けて」
「どうも、ありがとう」

こうやって道端での出会いがあることも自転車で走ることによって生まれるメリットなのかもしれない。

福生には巨大な米軍基地がある。地元とはまったく異なる環境であるため、基地があること自体が数年前まで不思議な光景に感じた。その周辺の街にも異国情緒というものが漂っている。今となっては少し慣れてきたが、やはり今回も基地の横を走っている時はずいぶん遠くまでやって来たとでもいうような気分になった。

基地の横を抜け、しばらく進み、拝島駅近くの坂を登ると彼方には雪化粧をした富士が見えた。富士は見る場所によって姿を変える。そこから見えた富士は均等の取れた整った形をしているように見えた。頭の中でチロルチョコを想像した。

早朝のサイクリング。新しい相棒と行った初めての小旅行。時間の制約上、少し物足りなさを感じはしたが、また次の機会がいくらでも待っているから我慢した。さて、次はどこまで行けるだろうか。どんな美しい風景が待っているだろうか。新しい出会いがあるだろうか。

サイクリングをしている時心の中に涌いているものと同じ、新鮮で、みずみずしい心のまま、素朴な事にも楽しさを感じられるような自分でいられたらいいなと思った。

そんな朝だった。

ー2020年11月5日 筆者の日記よりー

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