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Fragments, 20230118

深澤直人,デザイナーの言葉から考えたこと

16日,広島市産業振興センターデザイン開発室の主催で,深澤直人氏の講演会があった.配信でなく会場でのリアル講演会というのは随分久し振りな気がした.テーマは「デザインの美しい考え方」ということで,予想通り,ご自身のデザインしたものについての解説ではなく,どう世界を見ているか,という「考え方」の話.美しい考え方を持って日々の物事を選択すればいい方向に行くはずだ,だからみんなそういう意識を持とうよ,という,We 目線での話.「創発」というキーワード.昨年招かれて行ったイスラエルの国民性と暗黙知の疎通,人間は動物的に生き延びる確率が高い方へ動いていくという心理から「判断」を間違わないようにするためには「考えて」足るを知る,ことが大事.そういうことができるのを「機知」というのではないか.社会の通奏低音として不気味に響く感染症や戦争や紛争,経済的にも行き詰まりを見せている社会をみんな不安に思っていないか,だけど僕らの考え方見方でよくしていくことは可能だと思っているよ,そんな静かで強いメッセージ.デザイナーの前に,善く生きる人,であって欲しい,そういう想いが込められた対話のような講演だった.

西田幾多郎の「善の研究」という著作がある.大学の時に哲学の授業で先生が紹介してくれて読み耽った.また,美と善は元々は同じというのは「エステティック」の語源もそうだった.吉田健一の随筆「長崎」の有名な一文「戦争に反対する唯一の手段は各人の生活を美しくしそれに執着することである」というメッセージ.講演を聞きながら,これまでに接してきたこれらの言葉が去来した.デザイナーは社会学や哲学と切り離せないだろうし,学問として学ぶというよりは,デザインを生業とし本質を追求すれば必ず直面せざるを得ない問題がそこにはある,ということではないかと思う.

そして,そういう話になるのは,やはり通奏低音がやや不気味に響いているからで,かくも人間はさまざまなものかと思う.そこには思想があり,政治がある.簡単ではない.だが身の回りのことからコツコツと.

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