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240gram VOL.7 ニューヨークについて知っているいくつかのこと/Several things that I know about her


(現在,世界中で拡大する新型コロナウイルスの影響で多くの都市が封鎖され市民は不安と向き合っています.2017年の冬,ニューヨークを旅した後にまとめたZINEを見返しながら,いま急速に彼の地で状況が悪化している事実を辛い気持ちで受け止めています.ニューヨークだけでなく,世界の都市が1日も早く平常に戻り,そこで人々が再び集い過ごせる日々が戻ってくることを願ってやみません.これ以上の感染が広がらないように私たちも自分の生活圏で最大限の配慮を持ち行動する局面に来ていると思います)

The first edition was released in MAY 2018

Maps

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旅のはじまりは計画を立てることだと言われるが,まさか自分がニューヨークを訪れることになるだろうとは考えていなかった.若いころ幾度となく訪れた親しみのあるヨーロッパの文化にくらべて,特に建築の分野では,歴史の浅いアメリカの建築をどこか二の次に考えていたというのが正直なところだ.しかしよく考えてみれば,最も敬愛する歴史的な建築家は主にアメリカで仕事をしたルイス・カーンであり,子供のころに夢中で見ていたのは「アメリカ横断ウルトラクイズ」であり,「アメリカンヒーロー」だったことを思い出せば,自分もやはりアメリカナイズされていたのだろうと思う.そんな訳で,2017年の年の瀬クリスマス前に4泊6日のニューヨーク行を決めた.この機会を逃すと,食わず嫌いのまま人生を終えていたかもしれないな,と今になって思う.

The Manhattan and the Hudson

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空港に着いて,すぐに地下鉄に乗りマンハッタンの中心部を目指した.海外に出るのは数えてみれば16年ぶりだった.ヨーロッパと違うとはいえ,日本と明らかに異なる雰囲気は海外旅行の時に感じるあの空気と違いなかった.どこか体が軽くなった気がした.タイムズスクエア,ブルックリンブリッジ,グラフティ,どれもイメージした通りのマンハッタンの風景だ.ただ,そのマンハッタンをつくりだしたハドソン川と大陸の地層のスケール感を,メトロノース鉄道でビーコンに向かう途中に見せ付けられた.そう,ニューヨークに来たとは言え,まだアメリカを見たわけではないのかもしれない.

Art and Places

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予め行ってみたい場所のリストと行程を3日前にプランし,できるだけ多くのものを観たいと思った.20年前に,設計事務所の先輩に教わったロバート・ザイオンによるデザインのペイリー・パーク,それと比較的新しい名所となったハイラインとチェルシー周辺をマーキングするように訪れてしばらくの時間を過ごす.それから,今回の大きな目的でもあったダン・フレヴィンやドナルド・ジャッドなどアメリカのコンセプチュアルアートの作品群を見て回った.かつて自分の価値観を揺るがしてくれた芸術や場所との邂逅.古くからの友達にやっと会えたような感覚.いつの間にか,アメリカとヨーロッパを区別していた自分がどこか滑稽になり,またひとつ自由になれた気がした.

Architecture

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NYへの行きのフライトはJFK空港着だった.サーリネンによってデザインされたコンクリートのシェル構造の翼をもつターミナルビルは現在閉鎖中だが,空港内を環状につなぐエアポートトレインの中から眺めることが出来た.街中では,ひっそりと佇むフィリップ・ジョンソンのロックフェラー・ゲストハウスのファサードにも出会えた.マンハッタンでは,幾度となくグランド・セントラル駅を経由して移動した.ニューヨークの中では古い建築物のひとつだが,その大空間のロビーは大都市にふさわしい威厳を保っていた.そのグランド・セントラルから鉄道に乗ってコネチカット州にあるイェール大学のアートギャラリーまで足を延ばしたのは,やはりカーンの出世作であるイェール・アート・ギャラリーを訪れたかったから.階段室の無骨な造形は晩年のインドでの計画にもつながるカーン建築の原型である.

Skyscraper

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摩天楼のビル群の中で,どの建築が好みかと聞かれたら, 今ならクライスラー・ビル,と答えるかもしれない.実際のところ,古参のエンパイヤ・ステートもロックフェラーも,比較的新しいザ・ワンも工事中のMoMAの新タワーも素晴らしいと思う.もしワールド・トレード・センターのツインタワーが残っていても,答えはおそらく変わらないと思う.どうしてクライスラーなのだろうかと自分に尋ねても,はっきりとした理由があるわけではない.ひとつ言えるのは,20年前の自分はこのアールデコという時代の装飾には嫌悪感しかなかったということだ.アドルフ・ロースの「装飾と罪」が研究テーマだったから,そういうデコラティブなものにははっきりとアンチを唱えていた.今,歳を重ねて思うのは,クライスラービルは,おばあちゃんみたいだな,ということ.建築も歳をとるのだ.

I♡NY

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I miss you, NYC.

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