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THINK_01/ゲスト:藤原徹平さん(建築家)

ーーTHINK BOOK について
THINK BOOK は,読む "THINK" です."THINK" とは Suppose Design Office の谷尻誠が毎月魅力的なゲストを招き「"考える"を考える場所」として開催しているイベントです.ここではTHINKに参加した人も参加できなかった人も,トークのエッセンスを追体験できるように読み物として再構成してまとめています.過去100回以上に及ぶ記録資料などの掘り起こしを含め,月に2回程度掲載していきます.
(about THINK BOOK: https://note.com/240design/n/ne878f6f6a37e )
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9 years:まえがき

 記念すべき第1回のTHINKの記録にアクセスした.その印象を個人的に記しておきたい.
 THINK BOOK 連載のために,アーカイブの資料をサポーズデザインオフィスと共有させてもらっているのだけど,フォルダに分けられたそれら各回の資料をPCのスクリーンでスクロールしながら,本当にその9年間の蓄積(アーカイブ)というのはすごいなぁと感じる.僕自身(当マガジンの共同編集者)殆どの回に誘っていただいて出向いているが,中にはどうしても都合がつかず,その場に居合わせなかった回もある.実は,この第1回がそうだった.谷尻さんからは,当時「新しい事務所に越したら,ゲストを招いて一緒にその人のやっていることや考えていることをみんなで学べる場をつくりたいんですよね」と聞いていた.しかし,どうしても優先させなければならない会議か何かで会場に行けなかったことを覚えている.だから,実は第1回目の詳細を知ったのは,この原稿を書いている現在,9年後というわけだ.しかも,今回の記録はビデオではなくスチール写真と音声という組み合わせ.当時はUstreamという配信サービスが使われ始め,個人がインターネットに中継できるという時代の黎明期で,きっと配信を試みたのだと思う.音声を聞くと,谷尻さんも藤原さんも声が若い.後日譚としては,この二人は,後に広島に新しい中高一貫グローバル校をつくるというコンペでタッグを組むことになった.惜しくもそのコンペでふたりは選ばれなかったが,残ったファイナリストによる提案の中でそれは異彩を放っていた.その話はここでは詳しく出来ないが,このある種「空気を読まない」悪童(誉め言葉ですよ)の二人組がまとめた提案だからさもありなんという感じだったし,それが実に痛快だったのを覚えている.そんな風に,9年間のタイムラグを経て聞くというのは,その間の変化や,出来事を同時に考えながら耳を傾けるという,重層したレイヤーを感じる体験だった.

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 よく考えると,2011年の4月ということは,あの大震災から1月ほど後ということになる.おそらく,日本全体に何か絶望感や虚無感がどんより影を落としている時期だったはず.多くの人がこれまでの社会の在り方に疑問を持ち始めたころ.そして,それは今のコロナウィルスで停滞した社会の空気ともどこかシンクロする.そんな空気がトークにどのような影響を与えていたのだろうかと考えながら読むのもまた一つの味わい方かもしれない.
 加えて,つい先ほど,谷尻さんに当時を振り返ったとき何を思い出すか聞いてみたところ「今思えば,不安しかなかったです,こんなところに人が来てくれるのかって」と返事が返ってきた.後半のQ&Aのところでは,しきりにサポーズのスタッフに質問するように促していたし,藤原さんのトークの内容も,一般の人向けに第1部,サポーズスタッフ向けに第2部という構成だったので,よく谷尻さんがTHINKの説明で言うように「まずはスタッフをインスパイアするために,そして,せっかくなら一般の人にも聞いてもらえるように」というTHINKの意図が明確に表れた第1回目だったんだなと思った.一方でそれは,だからひょっとしたら,その説明っていうのは,当時の谷尻さんの不安の裏返しだったのかもしれない.結果的には不安をよそにたくさんの人が駆け付けた.写真を確認すると,たくさんの知った顔が会場にいた.後にTHINKで知り合った人もいる.このタイムカプセルを開くような感覚を多くの人と共有できれば素敵だなと思う.
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ゲスト:藤原徹平さん(建築家)

日時:2011年4月28日(木)19:00~21:45
場所:サポーズデザインオフィス広島3F

建築家は気持ち悪い

谷尻さん:
「今日のゲストは,藤原徹平さんです,あ,すいません,藤原さんを紹介するのに何も原稿を準備していなかった(笑),いまは,隈研吾さんの事務所で仕事をされ(注:当時)ながら,ご自身でも FUJIWARABO(フジワラボ)を立ち上げられ,個人の活動も積極的にされています.そんな藤原さんに来てもらって,うちのスタッフや,こうして一般の方々にその考え方をお話しいただくときっといい話が聞けるんじゃないかなと思って,今日はゲストにお呼びしました」

--あらかじめ準備をしないという谷尻さんの方針は9年前から一貫している.まだ「行き当たりバッチリ」という決め台詞を思いつく前かもしれない.そして,その割には,さすがに初めてのイベントをホストとして迎えるという若干の緊張感が感じられた--

藤原さん:
「よろしくお願いします」

谷尻さん:
「僕,なぜかあまり建築家の人と友達にはなれないんですよね,たぶん,建築家の人が建築の話ばかりするからだと思うんですけど(笑)でも,藤原さんと出会って話した時に,藤原さんって話題が豊富で,建築以外のことでどんどん話が盛り上がるんですよね,すごい守備範囲が広いなって」

藤原さん:
「僕は昔から,基本的に建築家が気持ち悪いと思ってて(会場爆笑),建築やろうと思って大学入ったのはいいけど,建築家ってことごとく偉そうで胡散臭いなと思って(笑)なんでこんなに偉そうなんだろうってもう反発心が起きちゃって,授業とかもほとんど行かなかったんですけどね.でも一度,坂茂さんがゲストで講演に来てくださって,その話を聞いて,建築を真面目にやらなきゃって思ったりしたんですけどね,一応」

「今日は急に谷尻さんから,声がかかって話してくれっていう事だったんで,それもちょうど昨日まで九州に行ってて,明日は関西に行かなくちゃならなくて,その中間で来て,ということになって.慌てて資料も準備して.それで,今日は前半を一般の人にも楽しんでいただけるように,建築と周辺のカルチャーの話,後半を,僕が隈事務所で海外コンペ担当なんですけど,そこで負けた案についてレクチャー用にまとめた資料があるので,それを主にはサポーズのスタッフ用に準備してきました」

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建築は人間を表現できない

--藤原さんは,建築とその他のジャンルのクリエイティブとの違いについて非常に意識的で,それらを比較することで,建築の可能性を考えているようだった--

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2020年1月で109回を迎えたTHINK。 これまでのアーカイブを読むTHINKとして届けていきます。 活躍する方の思考の共通項と差異を客観的視点から考察します。

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