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鹿野の昔話「夢買い長者」

虻が峠は、山口県周南市が合併する前の街、旧徳山市と旧鹿野町の境にある峠の名前です。大昔、虻が峠のてっぺんに一本の大きな木があったそうです。

その木には、一年中葉が茂り、夏は涼しい木陰を作り、冬はそこだけ雪が積もらなかったそうです。それに夕立があっても濡れることのない、立派な枝ぶりだったんですって。

そんな大きな木ですから、旅人にはいい塩梅に休息を取ることのできる場所でした。

ある夏の暑い日、東の方から旅の若者が、西からは仕事帰りの爺さんがやって来ました。「暑いですね」と言葉を交わすうち、すっかり仲良くなった2人は、話し込むうちに疲れがやって来て、ついうとうととしてしまったのです。

若者が先に目を覚ましましたが、爺さんはまだまだ夢の中。そこにアブが飛んできて、大いびきをかく爺さんの鼻の穴にすっと入っていきました。

「は、は、はーっくしょん!」

その拍子に、爺さんは大きなクシャミをして目を覚ましました。どこかに飛んでいってしまったアブを見送って、爺さんは「そういえばの」と若者に話します。

「わしゃ、夢を見ちょったんじゃが、アブがこの木の根元をぐるぐる回って『ここに黄金が埋まっちょるぞ』と言うから掘って見たんじゃ。そしたらの、本当に黄金の入ったツボが出てきたんじゃ……ま、そりゃ、夢の話じゃけどの」

アハハ、と笑う爺さんに、「なぁ爺さぁ、そしたら、その夢をわしに売ってくれんかいの」と言って、幾ばくかのお金を渡して爺さんからその夢を買いました。

お金をもらってニコニコしながら家に帰る爺さんを見送り、若者は腕まくりをして、夢のとおりに木の根元を掘ってみました。

すると、本当に黄金の入ったツボが出てきて、若者は「やっぱり、夢を買うてよかった」と、持ち帰ったその黄金を元手に、商売を始めてこれが大成功。

その若者は、それから「夢買い長者」と呼ばれるようになったそうですよ。

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