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　毎年、夏が近づくと「『海がきこえる』を借りてきて観ること」と「桃を食べること」を必ずやっている気がする。

海がきこえる

　今年もまた『海がきこえる』を借りるために、緩やかな坂を登って近所のTSUTAYAまで足を運び、帰宅してからすぐに観た。

　ところで、『海がきこえる』という作品をご存知だろうか。本作は、氷室冴子による同名小説を原作として、スタジオジブリの若手スタッフ陣によって制作され、1993年に発表されたアニメーション作品である。

海がきこえる - スタジオジブリ｜STUDIO GHIBLI

東京の大学へ進学した杜崎拓は、吉祥寺の反対側ホームにある人影を見た。下りの列車に姿を消したその人影は確かに武藤里伽子に見えた。高知へ帰省する飛行機の中で、拓の思いは、里伽子と出会ったあの2年前の夏へと戻っていた。拓にとって里伽子は親友の片思いの相手という、ただそれだけの存在だった。高校3年の修学旅行までは…。
氷室冴子が綴った極上の青春小説を、スタジオジブリが瑞々しい映像でアニメ化。

あらすじ（DVDケースに記載の原文ママ）

　「ジブリ作品で好きな作品は何か」という話題になるたび、私は大学生の頃から『海がきこえる』の名を挙げ続けている。それにも関わらず、「同じく『海がきこえる』が好きだ」という人にも、そもそも「『海がきこえる』を知っている」という人にも、リアルで出会ったことが一度もない。

　それもそのはず、本作は未成年飲酒のシーンを含むことから、過去に１度しか金曜ロードショーで放映されたことがないのである。本作が映画作品ではなく、アニメーション作品であるということも、知名度の低さに影響しているだろう。

　拓や里伽子と同じ時代を生きていたわけでも、東京や高知で生まれ育ったわけでもないけれど、作中で描かれる風景にどこか懐かしさを覚えるような気がして、私は『海がきこえる』に惹かれ続けている。

　他のジブリ作品とは異なり、本作は圧倒的に現実に即した物語である。暮らしの中で巻き起こるさまざまな出来事とそれらに伴う感情の機微を描き出している。だからこそ誰もが学生時代に通過した（あるいは通過したかもしれない）甘みや痛みを想起させる装置を備えているのだと思う。

　『海がきこえる』は、東京と高知を舞台に物語が展開され、実在する場所がかなり多く登場する点も魅力のひとつだと考える。

　職場に向かって歩いていると、朝日を浴びて輝くハイアットリージェンシー東京が、ビルの隙間から顔を覗かせている。東京都庁や吉祥寺駅も作中そのままの姿だ。30年が経過した今でも、当時の景色は意外と残っているなと思う。

　これからも変わらずに、東京を生きる私の側にいてほしい景色である。

【2024/04/20 追記】

　これまで金曜ロードショーでも放送されなかった『海がきこえる』であるが、公開から30年を経て今回ついに劇場上映されるということで、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下に行ってきた。1回目は本作を初めて観る友人に紹介するために、2回目は望月監督と高橋プロデューサーのティーチン付き上映を観るために、短い上映期間中に2回も鑑賞した。

　受付でQRコードをかざして劇場内に入ると、2回とも満席になるほどお客さんが入っていて、私は本当に嬉しかった。公開当時にまだ生まれていなかったであろう同年代の観客もたくさんいたし、一緒に行った友人も「すごく面白かった」と言ってくれたので本当に良かった。

　DVDで何度も鑑賞していた本作も、やはり映画館の大きなスクリーンで観ると、受け取る印象と情報量がまるで違っていた。紫色の細やかな点描で描かれた流れ雲や、里伽子がコークハイを飲んでいる後ろで聞こえる救急車のサイレン等、これまで気づかなかった細かい部分のこだわりも発見できた。

　4月19日（金）19時30分〜上映回の望月監督と高橋プロデューサーのティーチンでは、当時の制作秘話を聞くことができた。最終的に半年かかった作画期間も、当初予定は3ヶ月とかなりタイトなスケジュールとなっており、望月監督は「1日も無駄にできない」日々を送ったそうだ（作家路線を進んでいきたい私にとって、この一言はとても心に響いた）。短期集中だからこそ生まれた密度というものが本作にはあるのだと知った。

左から高橋プロデューサー、望月監督

・里伽子の声優にキャスティングされた坂本洋子は、鈴木敏夫の叔父の会社に勤務しながら劇団員として活動していた。職業声優とまた違う演技が、里伽子の場違い感（＝高知に馴染めていない感じ）と見事にマッチした

・大学生になった里伽子と杜崎が再会するシーンについて、場所の候補に渋谷の交差点、調布飛行場のエスカレーター等も挙がっていた。最終的には、望月監督がホームの端にある狭い階段を気に入ったことで吉祥寺駅が選ばれた

・偶然にも監督の知人に高知追手前高校の出身者がおり、その人が学校に掛け合って校内ロケが実現できた

等の制作秘話も聞くことができ、幾つもの偶然が重なって生まれた作品でもあることが分かり、作品に対する理解がより一層深まった。

　等身大の青春を、丁寧に描いた作品である。そして、当時にしては珍しく、とにかくリアルを描いた作品でもある。里伽子の実在性はその最たる例であり、だからこそ賛否が分かれる程の魅力をもつ女の子になったのだ。

　最後に、本作を観に行った友人が送ってくれた文章が良かったので、一部抜粋してご紹介したい。『海がきこえる』における『海』とは何か、そして作品全体について議論したときの文章の一部である。

　少年期から大人への前進の始まりが終盤の2人の海のシーンだったと思うんですよね、やっと海がきこえるようになった、という。〈中略〉
　大人になること＝世界（＝海）の広さを知ること、きこえる＝わかりはじめた、こと。〈中略〉

　歳をとったから大人になるのではなくて感情を経まくるから大人になる。「卒業」の話だ、と思ってました。

　渋谷のこの勢いのまま、もっと全国各地で（少なくとも高知でも）上映されることを願っています。

　『海がきこえる』、GO！！！

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桃にまつわるエトセトラ

　桃のことは大好きなのが、購入する前にいつも少しだけ悩んでしまう。別に買おうと思えば問題なく買えるのだが、「今日の頑張りに見合ってるかな…」とか考えてしまう。桃のことを特別扱いしすぎなのだろうか。

　もしもスーパーマーケットで、桃を目の前に手を伸ばしたり引っ込めたりしている人物を見かけたら、きっとそれは私である。

　１年前、山梨県の桃農家さんが豊作になった桃を売り捌きに、新宿駅まで来ていた。数個頼んだつもりが沢山サービスしていただいてしまった。この時期になると、ありあまる桃を抱きしめて電車に飛び乗った夜のことを思い出す。

　
　桃といえば、同じ岩手県盛岡市出身の作家・くどうれいんさんの『桃を煮るひと』を読んだ。

桃を煮るひと

　食べることをこよなく愛するくどうさんの食エッセイが多数収録されている。自由な感じがして読んでいて楽しかった。「小葱が太いとゆるせない」「小鳥と虎落笛」という２つのエッセイが個人的にお気に入りだ。

　「この前」と話し出すとき、この前だと思っていることが、もう六年も前だったりする。若く、両目の瞳の奥にひとつずつ真っ赤な炎を燃やし続けていたような日々もあったけれど、その日々に戻ることはもうない。いまはおだやかに晴れた日の川面のように青い炎で、毎朝湯を沸かしている。たくさん水を入れた鍋に菜箸を差しこんでかき混ぜるとき、いつも船を漕いでいるような気持ちになる。この厨から、できるだけ遠くの岸へたどり着いてみたい。時折かつての自分が建てたいくつかの灯台を通り過ぎながら。

「あとがき」より

　長く引用してしまったが、ここの文章が好きすぎて、本を開くたびに「あとがき」から読み始めていた。どれだけ文章を書いたら、このレベルに到達できるだろうか。すごい、の一言に尽きる。

　私もくどうさんのように、自由に文章を書いてみたいものだ。

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　仕事においても同じことが言えるが、私には『足で稼ぐ』という言葉が似合っていると思う。
コロナの終息とともに、アクティブさがマシマシになっている。

「炎天下での仕事にはアジシオの瓶が必須」
（声を掛けてくれた時代屋のお兄さん談）
（東京・浅草寺）

背中ですべてを語るゴリラ
またすぐにでも行きたい動物園
（東京・上野動物園）

Pitch Odd Mansionのアー写撮影場所
最新アルバムも最高でした
（東京・the SOHO）

ラベンダー畑を見るためだけに秋田に行くという贅沢
（秋田・美郷町ラベンダー園）

人は、本当に美味しいものを食べると無言になる
（岩手・つるかめ食堂）

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　自分以外の人が作ったプレイリストを聴かせてもらうというのは、その人の内面を覗かせてもらうもののような気がする。「見ていいのかな…」という気持ちも少しありつつ、自分１人では知り得なかった音楽に触れることができるので楽しい。

　「毎月どうやってプレイリストを作っているのか」と聞かれたので、改めて振り返ってみる。

　自分の場合は、次のような流れで作っている。

① 基本的に気に入った曲は、Spotifyの「お気に入り」にどしどし入れる
② たとえば今月なら「202306」というように、月毎にプレイリスト用の箱を作る
③ ①の中でも「今月この曲は外せないな」という曲があれば、都度②に入れる
④ 月末が近づいてきたら②を見直して、曲と曲の繋がりを考慮しながら曲順を決める
⑤ ジャケ写(？)を決めて完成！

　これらを毎月繰り返すことで気づいたことは、月末にならないと自分でもどんなプレイリストが完成するか分からない、ということである。月初に気に入ってリピートしていた曲でも最終的には選抜されなかったり、反対に月末近くに知った曲なのに滑り込みで選抜されたりする。自分でも予想できない展開があって、それもまた一興だ。

　さらに、友人から指摘されて気づいたことは、私のプレイリストはシャッフル再生を想定していない、ということである。曲順に意味をもたせているので、シャッフル再生をしたらその意味が崩壊してしまうかもしれない。

　友人が「毎月プレイリストを作り続けたら、アーティストが出したアルバムに対してダメ出しができるようになるかもね、『ここの曲順が違う！』とかね」と言っていて、思わず笑ってしまった。

　たしかに、己に向ける批評の目を、無意識にほかの誰に向けてしまう日が来るのかもしれない。それでも、私はそれを言葉にして誰かに伝えるということはしないと思う。
　
　どんなものであれ、誰かが作品を完成させるとき、私は最後まで何かをやり遂げたその信念を尊敬している。そして、ほかの人に対して説明できない、あるいは説明なんてしたくない、その人固有の考えが作品のどこかに潜んでいる。

　私は、それをただ静かに見つめていたいだけ。