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smc PENTAX-FA 28-90mmF3.5-5.6について

 レンズ交換式カメラの、特に入門機のキットレンズというのは、廉価な入門機の値段を引き上げない低コストかつ、ご新規さんに「○○のカメラ駄目じゃん」と思わせてはならないクオリティが求められ、数も大量に世に出る、メーカーの顔となる偉大なレンズです。
 なので、「マイナーな入門標準ズーム」って、あんまり多くはないです。

 それでも、マイナー入門標準ズームというのが、なくはない。
 PENTAXでいえば、smc PENTAX-FA 28-90mmF3.5-5.6。80mmはよく見るんです。90mm?

 なんというか、「まじで見たことない」というほど超マイナーなわけじゃなく、中古屋にしれっと置いてることはある程度のものです。値段が高いわけでもなくレアと語られるわけでもなく、見かけても「28-90mmもあるのか」と流してしまって終わっちゃう。
 そして探すと見つからない程度には見かけない。

なぜか何度も作り直される28-x0mm標準ズーム

 90年代からのPENTAXの、レンズキットに採用されるようなスタンダードな標準ズームを時系列で整理してみると、以下のようになります。

(90年代前半・パワーズームのZシリーズ時代)
●'91 FA28-80mmF3.5-4.7 (パワーズーム対応)
●'93 FA35-80mmF4-5.6 (パワーズーム省略で廉価に)
(90年代後半・コンパクトなMZシリーズ時代)
●'93 FA35-80mmF4-5.6 (最廉価機種向けに継続販売)
●'95 FA28-70mmF4AL (中級機向けのF4通し)
●'98 FA28-80mmF3.5-5.6 (上記2本の中間に追加)
(2000年代・フィルム一眼レフ終了へ)
●'01 FA28-90mmF3.5-5.6 (テレ端を微妙に伸ばしてモデルチェンジ)
●'02 FA28-80mmF3.5-5.6AL (輸出専用・タムロン177DのOEM)
●'03 FA J28-80mmF3.5-5.6AL (絞りリングを省いたJシリーズ)

 ということで、PENTAXは、90年代後半のスタンダードだった28-80mmF3.5-5.6が、98年まで出遅れちゃってます。91年のは結構大柄でF値もやや明るく、廉価ズームより少し上のものっぽい。
 新しい設計とはいえない35-80mmが、90年代半ばまでローエンド用標準ズームに使い続けられていました。
 やっと28-80mmが出たと思ったら、もうデジタルに向けて動き出しててよさそうな21世紀初頭に、3度に渡って28-80/90mmF3.5-5.6の廉価ズームを作り直している。
 なにしてるんだろう?

PENTAX廉価一眼レフのキットレンズ変遷

 廉価な標準ズームの主戦場は、ボディキットのセット売りです。単品でそんなにたくさん売れるレンズじゃない。
 カメラ各機種のキットレンズが何だったかは、ネットでははっきり情報がないことが多いんですが、とりあえずPENTAXは各機種のマニュアルを公開していて、そこで使われてるレンズがそうだろうと想像されます。

 で、中級以上の機種は略して、廉価機・入門機のキットレンズをマニュアルから推定してみると。

●'96 MZ-10 - FA35-80mmF4-5.6
●'97 MZ-50 - FA35-80mmF4-5.6
●'99 MZ-7 - FA28-80mmF3.5-5.6
●'00 MZ-30 - FA28-80mmF3.5-5.6
●'01 MZ-L - FA28-90mmF3.5-5.6
●'02 MZ-60 - FA35-80mmF4-5.6
●'03 *ist - FA J28-80mmF3.5-5.6

 となります。28-90mmはMZ-Lのキットレンズでした。

 で、PENTAX入門機は、大きく機能を削ったローエンドと、撮影機能をコストが許す限り盛り込んだような少し上のラインとがあります。
 上のラインはMZ-10→MZ-7→MZ-L→*ist、ローエンドラインはMZ-50→MZ-30→MZ-60です。

 で、わざわざ新たな標準ズームが作られたMZ-Lとはどういう機種か。
 これはMZ-7のスペックを継承して、最高シャッター速度を1/4000秒に強化して、当時の一眼レフの撮影機能は一通り備えていました。パワーズームこそ非対応にしたものの、古いレンズとの互換性も削っていません。
 廉価ながら高機能な機種といえるでしょう。

 では、ボディに力を入れたからレンズも良いのを新設計だ……という調子で生まれたレンズなのだろうか。それは微妙なところ。
 FA28-80mmF3.5-5.6はマウントが金属で、28-90mmはプラになってます。安いレンズはマウントがプラ。うん。定価はどちらも同じ26000円だったそうですが。
 28-80mmは275gあって、まあ重たくはないけど軽くもないレンズ。格上の28-70mmF4が240gと小型軽量なので、比べると大きい。
 28-90mmは195gと非常に軽くなってます。しかし、うーん、それだけのことで……?

入手して撮ってみた

 ありそうな話としては、FA28-80mmが他社製品と比べて性能的に見劣るようになってきた、だから作り変えてより良いもので戦おう、と考えたと。
 それだったら、FA28-90mmは一度ブラッシュアップされた、なかなかよく写るレンズになってる可能性がある。撮って確かめてみたいところ。

 AFフィルム一眼時代のレンズとか、微妙な時代のものは、漫然と探すよりキタムラネット中古を当たるのが早い。2200円で見つかって、近所の店舗に取り寄せてもらって確保しました。外観にスレはありますが、光学系はきれいです。

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 とりあえずK-70で、広角端28mmF6.7の一枚。
 コントラストがだいぶくっきりして、中央部はかなりシャープ。

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 しかし、開放F3.5から6.7だと2段近く絞ってるというのに、だいぶ色ズレしてぼんやりしてる。APS-Cだからかなり周囲は切り落とされてるはずなんですけど、それでもこれだけ甘い。うーん……。

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 いいところにヒヨドリがいてくれて、テレ端・F8.0。
 しかしこれ、実はファインダーでも「あれ、視度補正ずれてる?」と思ってたくらいで。

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 ISO3200になっちゃってるのでそのせいもありますが、全然シャープさがない……。めちゃくちゃ甘いな……。

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 これはテレ端開放90mmF5.6の近接撮影。
 最短撮影距離40cmとかなり寄れるレンズで、最大撮影倍率も0.25倍となかなかなのはいいんですけど、なんかソフトレンズみたいになってる。
 これ、球面収差がかなり大きく残っちゃってるんじゃなかろうか。

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 これはズーム中域の65mmで開放(表示上はF5.6)、最短撮影距離近く。
 65mmでもやはりピントは甘々。ソフトレンズみたいな写りには違いない。
 絞ると違うかもなんだけど、時間遅くて日陰だったから試せてないや。

 ただ、ボケについてはきれいな感じ。少しオフフォーカスなところも、大きくボケたところも、なめらかにボケてます。

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 それから、PENTAXのレンズって逆光に弱いものってあんまり見かけないと思うんですけど、逆光で使ったらこんなフレアまみれに。
 まあ、画面外真上に太陽が居るような極めて厳しい条件ではあるんですけれども、これもファインダー見てるうちから「あかんな」って。
 フードがあれば……と思いきやバヨネットフードは設定なし。58mmのねじ込みフードになるけれど、長いと広角でケラれるし、あんまり深いのは使えないはず。

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 広角端しか試してないですが、樽型歪曲はありますね。気にならない、とは言えない程度にひん曲がります。
 ただ周辺減光は少ないみたいで、APS-Cだと開放からあまり気にしなくていいレベル。

 ということで、30分も使ってないくらいの短いテストですけど、これは……ちょっと……良いとはとてもいえないぞ……。あまりにもアラが出まくっている……。
 広角ではAPS-Cでさえ気になるくらい周辺が甘くて、望遠だと全画面が甘々。
 まあL版プリントくらいが多かったフィルム一眼レフ入門機のレンズなんだから、デジカメで写りを見るのは過酷ではあるんですけどね。

 周辺減光の小ささとボケの良さは長所かとは思うんですけど、ピント合ってるところが甘々なのにボケだけ良いというのは、どう画作りに使えばいいか私にはわからない。

実写を踏まえて考察

 FA28-80mmF3.5-5.6をさらにブラッシュアップする形で再設計したのがFA28-90mmだ、という仮説は、ちょっとこの写りを見ると、正直「わざわざ作り直してこの程度……?」と思っちゃうなあ。うううん。
 もっと前からあるFA35-80mmF4-5.6が、デジタルでも画質的にはいけるくらいよく写るレンズですからね。フィルムでも当然良い写りで。
 90年代後半に35mmスタートのズームじゃ話にならなかったかもですが、それにしても93年の最廉価レンズに、01年のレンズがこれだけ画質的に遅れを取っていては……。
 これ以上にFA28-80mmの写りが悪かった、というのかもですが、それもまさかと思いますし。うーん……。まあ500円とかで買えそうだし見かけたら試そうか。

 まあ、FA28-90mmが発売してわずか2年、MZ-Lの次のモデルである*istが出るときに、既存レンズのFA J化じゃなくて新設計で28-80mmが用意されたあたり、「これじゃ駄目」と思われたレンズな気もします。
 28-90mmを出した翌年に、輸出用にタムロン177DをOEMしてるというのもなんというか。

 しかしまあ、30分触って何もかもわかるものでもないので、また今度どこか撮りにいってみましょう。30分でこれだけアラが見えちゃうのが厳しいっちゃ厳しいんですが。

余談:設計者は?

 余談ですが、FA35-80mmは、FA Limitedレンズの設計で知られる平川純氏が手掛けたレンズだそうです。

 FA28-90mmは、誰の設計かは私が知ってる資料からは調べられませんでした。特許掘ったら出てくるんでしょうけども。

 MZ時代のFAレンズの設計者だと、コンパクトで写りが良いFA28-70mmF4ALとかFA35mmF2などを手掛けたのが泉水隆之さん。後にニコンでも名玉を作ってます。
 あと米山修二さんも、FA☆200mmF2.8とかFAマクロ100mmF2.8といった評価の高いレンズを作ってる他、FA28-80mmF3.5-5.6とか24-90mm、28-105mmなどの標準ズームも何本もやってますね。

 まあ、この記事では、FA28-90mmは写りが悪いと言ってしまってるので、誰の設計なのかは追求しないことにします……。

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