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「虫を殺した時、ああ私1人で生きてるなって思うよ」

リビングにムカデが出た。

彼氏が網戸もせずにうっかり窓を30秒ほど開けた隙に入ってきてしまったようだ。

ムカデを見た私は殺人現場を見たかの如くパニくり、ムカデの処理は彼に一任して事を終えた。

ベランダがでかいところが気に入って決めた家だったのに、大嫌いな虫は日々が暖かくなるにつれて増えていった。ダンゴムシはごろごろいるし、雨が降るとミミズも出る。

部屋の内見の時に「このベランダがなんか嫌な予感する」と言っていた彼を押し切ってこの部屋に決めたのだが、見事に彼の発言は当たっていたようだ。

「ほら、俺の言うとおりになったでしょう」

伏線回収した彼はドヤ顔でいう。30秒窓を開けっぱなしにしていたくせに。

元気なムカデを見てグロッキーになった私が「私、もう引っ越す」と言うと、彼氏はニヤニヤ笑っていた。

殺虫剤をアマゾンで探したり、虫が出ないようにする方法を調べまくったりしている私を見て、

「もうメンタルを鍛えるしかないよ、それが一番早い。強い女になれ。」

胸をどんどんと、2回叩いて彼はそう言った。

彼を睨みつけて、次の日私は朝から薬局に行き、怯えながらベランダに殺虫剤を撒きまくった。数時間でベランダは虫の死骸だらけになった。




日々身に起きたことのほとんどを職場の先輩に話している私だから、この大事件は速攻で先輩に話すことになった。

ランチタイムに虫の話をされるなんて嫌に決まっているのに、非常識な私は早口で全て話した。聞き上手な先輩たちには感謝しかない。

「うわー最悪だね、でも彼がいる時でよかったね!」

そう言われて、確かに!!!!!と思った。

ムカデの気持ち悪さで私のIQは2くらいになっていたのだろう。
1人だったらどうなっていたことだろうか。考えるだけで泡吹きそう。

「虫が出た時とかどうしてますか?家で出たことあります??」とIQ2が聞くと、一人暮らしの先輩たちは「あるある!」と即答した。

そりゃあるだろ。虫が出ない家なんてほぼない。

「自分で殺すしもう本当嫌だけど対処するよ。ゴキブリとか殺した時、ああ私1人で生きてるなって思うよ(笑)」

先輩のその言葉に、頭をドンと石で殴られたような気持ちになった。

たかだか虫如きだけれど、その対処には勇気と強いハート(ほぼ同じ)が必要で、一人暮らしならば絶対に自分でどうにかしなければいけないのが大人で。

そんなこともすっかり忘れてギャアギャアと喚いて全て彼に対処させて、結局私は実家にいた頃からほぼ変わっていない。

少し料理ができるようになって、家事をこなして、ガス水道電気代を払って、1人で生きているような気持ちになっていたけど、全然1人で生きていない。


最近の私は未来のことをよく考えていた。何やかんやでキャリアを最優先で考えていたり、お金のことを考える自分をすごく大人になったと思っていた。

結婚するしないかとかではなく、きちんと1人でも生きていける人間でいたい気持ちがしっかりある自分のことを、めちゃくちゃ「1人で生きている」と勘違いしていた。

これじゃあ私、全然1人で生きてける気がしない。


今年の夏に対して、私はすごくビビっている。
何なら梅雨から虫は増えるから梅雨も怖い。

1人の時に虫が出たら、1人でどうにかする自信がない。
でも私は、1人でも逞しく生きていきたい。でも虫コワイ。

このままじゃ私、ありとあらゆる防虫グッズを買い占めて破綻してしまいそう。

1人で生きれる人間になるにはまだまだ時間がかかりそうな自分。
そんな私にお構い無しな大きなベランダと虫たち。
強くなれ、という彼。


先輩の言葉が何度も頭の中をぐるぐるしている。




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