東京駅から徒歩10分で見にいける名画 ARTIZON MUSEUM(ブリジストン美術館)

この美術館のすごいところは、目玉として展示されている絵以外に、教科書で見たことのあるような絵が目に飛び込んでくることだ。ルノワールの金髪で水色の服を着た女の子の絵、青木繁の大きな魚を男たちが担いでいく絵(なぜか一人だけこちらを見ている絵)など。なぜここにこの絵が、と思ってしまう。

有名かは知らないがたまたま展示されていて特に印象に残った絵

◇クロードモネ 黄昏

夕焼けに染まる空のグラデーションがヴェネツィアの水面の揺れる波に映りこんでいる。波裏に添えられた紫色が憎いくらい綺麗。刻々と移り変わる夕空の一瞬をキャンバスに留めようとしたような絵。
さらに、ミュージアムショップでこの絵の絵葉書を買おうとして本物との違いに衝撃を受けた。絵葉書もこれはこれで綺麗だが、色が濃くてさっき見た絵とは全然違う絵に見える。モネの描いた微妙な色合いは今の印刷技術をもってしてもまだ再現されないことを実感。

◇円山応挙
展示室の途中に真っ暗な部屋に入る入口がある。作品保護のために照明を落としていますとの説明。
文字どおり真っ暗な中に足を踏み入れると、奥からはっとするような鮮やかな孔雀色が目に飛び込んでくる。今にも嘴でつついてきそうなリアルな孔雀と、その羽の上にのせられた鮮やかな孔雀色。この色を作り出すのは大変だったろう。
その隣には孔雀の絵より大きくてぼうっとした感じの絵がある。よくよく見ると竹の中で戯れる5匹の仔犬たち。つぶらな瞳に柔らかな表情、ふわふわころころと後足で耳をかく仕草のかわいいこと。今ならSNSで拡散される癒しの仔犬たちが、なぜか江戸時代の襖の上に渋い色で描かれているという事態に不思議な気持ちにとらわれる。多分、子犬の中にある人の心をくすぐる部分は時代を超えて共通で、この画家はそのツボを確実に押さえている。

本命のパウルクレーの特設展示も期待どおりだったが、予定外のモネや応挙の作品の方が印象に残った。本屋に目当ての本を買いに行ったら、途中の通路に積んであった他の本に心を奪われてしまうのと似ている。でも、いつもの好みだったら見に行かない絵との意外な出会いが、美術館に赴く良さかもしれない。