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韓国のアジュンマ

私たちのお隣さん、韓国。

今までソウルと釜山に一度ずつ行ったことがある。近頃それを、何となく思い出した。

今回は釜山でのお話。時は2018年4月。

友人と連絡を取り合い、GWの前半に2泊3日で韓国へ旅行することになった。

友人と駅で待ち合わせ、そこから空港へ向かう。
友人とは久しぶりの再会で、近況を話しながらLCCの乗り場を目指す。

格安旅行会社のウェブサイトで、航空券とホテルのパックを予約した。旅行の計画を綿密に練る方ではなく、旅を共にする相棒が決まったら、なるべく早い日にちで実行に移す。その為バタバタと直前で決まっていくことが多く、この時も旅の10日程前にやっとネットで予約を入れるという状況であった。

韓国の格安航空会社、イースター航空の便。(調べてみると、経営状況が芳しくないようで、今年の初めに更生手続きやら買収やらとなっているよう。)

もちろんCAさんも韓国の方で、綺麗だなと思いながら自分の席に着く。

ただ、やはりここは格安航空会社。日本のLCCもそうだが、席が狭い。とはいっても短時間のフライトですぐ到着するのだから、席が狭くても今回は良しとする。

韓国の釜山まで、飛行機でたったの一時間半である。国境を跨いではいるが、一時間半だけの移動となると国内旅行での移動時間と変わらない、むしろ短い。

その為海外旅行という感覚はあまりしないな、と感じながらも、機体が釜山空港へ近づいていき、窓から韓国の景色が目に入る。

山や空といった光景から、少しずつ建物が見え川が見える光景へと変わる。

たった一時間半の移動であったが、やはりそこは異国だった。飛行機を降りるとそこはハングル文字で溢れ、飛び交う言語ももちろん韓国語。お隣ながらもやはり海外。

市内へ向かうリムジンバスへと乗り込み、窓側のシートに腰を下ろす。その日は曇り空で、窓からの景色は空も街並みもグレーで覆われていた。日本ほど整然とはしておらず、何というか、もう少し大雑把な街並みである。灰色の空にグレーの建物。そこにカラフルな看板がアクセントになっていた。

道中のことはまた次の機会として、この旅で強烈に残っているシーンが一つあるのだ。

それは、カラフルな街で遭遇した、韓国のおばちゃんだ。

韓国到着の翌日、バスを乗り換え迷いながらも最終的にはタクシーを拾い、プサン近郊の甘川洞文化村(カムチョンドンムナマウル)へ向かう。

山の斜面に多くの家が建ち並んでおり、その家々が全てカラフルなのである。水色や黄色、黄緑や青、薄いオレンジの屋根や壁面がぎゅっと詰まって並んでいる。ここまでの旅はグレーの画面だった分、その彩りが一層美しく見えた。

ここは釜山の観光スポットの一つで、日本人もたくさん居たが韓国の若者も多くおり、地元でも人気の場所なのだろうか、と街並みを眺める。

景色はとても綺麗だったのだが、この地で強烈な記憶が刷り込まれる。

カラフルな家々の合間をぶらぶらと散策していた時だ。この日は何かパレードのようなものが行われており、これまたカラフルな青や黄、赤の細長い風船をイソギンチャクのように束ね、盛大な音楽と共に頭上に掲げぞろぞろと歩く大所帯に出会した。

何の団体かは分からなかったが、楽しそうな音楽を奏で小太鼓を叩き、ハロウィンパレードのように歩く一行を、道路の隅で立ち止まって眺めていた。

急に強烈な大声が耳に飛び込む。

声の方に目をやると、韓国人のおばちゃんが大声をあげて、何か文句を叫んでいる。韓国語は全く分からなかったが、とにかく怒っていた。
おそらく、自分家の近くでパレードなんかするんじゃないよ!うるさいんだよ!みたいなことを言っていたんだと察する。

韓国語で大声で喚き散らす様子。

韓国の、おばちゃん。
何がすごいって、周りを気にせずここまでに自分の意見を主張できることである。

そんな感心の念さえ抱きつつ、最初は驚いて見ていたが、何をそんなに怒っているのだろうと、だんだんと笑えてきた。しかし、それは次第に恐怖へと変わり始め、一緒にいた友人は怖がって、離れようと言い出した。

あんなに大声で怒っている大人は久しぶりに見た。当時の上司もたまに大声で怒っていはたけれど、それどころじゃない。

パレードの一行は少し居心地の悪さを感じたかのように、そそくさと進行を続け、その場から遠ざかっていった。

おばちゃんはパレード一行の背中にも大声をぶつけ続けていたが、挙句、一行の側にいたスタッフの様な人をターゲットにし、一対一で戦い続ける。

そのスタッフも、分かった、分かったから落ち着いて、という感じで宥めつつも、流れるようにその場を遠ざかる。

それでもおばちゃの怒りはなかなか収まらないようだったが、巻き込まれて自分まで怒られるのではないだろうか、と思ってしまうほどの空気感にたじろぎ、その場を後にした。

あんなに怒る人、今後なかなか見ることもなさそうだ。

あのおばちゃんにとっては、いつもの静かな日常に急に大きな音楽と共に登場したパレード軍団が、たまらなかったのだろう。静かさを取り戻すために、一行が奏でる音を超える程の大声で、必死で抵抗しているように見えた。

その頃は韓国映画を見る機会もなく、最近見る機会が増えてから当時の映像に似たようなシーンを目にすることが多々あり、この出来事が韓国映画かのように思えてきた。

日本で、あの時のおばちゃんの様な気迫ある人や場面に出会うことはほとんどないだろう。例えあったとしても、面白いとは思えず嫌なかんじにしか見えないはずだ。

これだから海外、異国という場は面白いと感じるのかもしれない。日本では起こり得ないことを、いとも簡単に目の当たりにする。

気迫に満ちた、韓国のアジュンマ。
強烈過ぎて、一生忘れることはないだろう。

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