くそババア、ルサンチマン婚活の巻

新型コロナウィルスによる、最初の緊急事態宣言下の話。

人間って、有事の際はほんとうに判断力がおかしくなるもんだなぁ、
と、思う。
2011年3月11日の東日本大震災のとき、私は真昼間から風呂に入っていた。
グラグラ来たので慌てて服を着て外に出ると、みんな平然と普通の程を装っているものの、おにぎりを両手に貪り喰いながら歩くサラリーマンや、腰を抜かして立てなくなった自分を大笑いしている看護師、電話ボックスに出たり入ったりしている学生なんかがいて、みんながみんな、ちょっとずつ変だった。

あの時の彼らと同じくらい、コロナ禍の私も変だったのだと思う。
普段、「もう男の人なんていらない!惚れた腫れたって面倒から解放されて、ババア万歳!ブラボー!ハラショー!マイペンライ!」と公言して憚らなかったのに、いざ有事となったら途端に心細くなった。
それで、そんな心細さを見透かしたかのように、ある日スマホの広告に『中高年のネット婚活』が表示されたのだった。

「会員様は真面目な方ばかりです!」
「サクラはいません!」
「男性会員様は高学歴・高収入の方多数」
「女性会員様が安心して活動できるよう、安全性を確保」

いつもであれば、これらの謳い文句ひとつひとつに突っ込みを入れるくそババアなのだが、どうにも判断力が鈍っていたのか、震える指で
ホィ
と、参加ボタンをクリックしてしまったのだった。
その後は
婚姻歴の有無(無)
子どもの有無(有)
などと、空欄を埋めるうちに、あれよあれよという間にプロフィールページが出来上がった。

で、この婚活アプリ、流行りのSNSの機能を全部盛り込んだようなアプリで、例えばTwitterのように日々の出来事をつぶやいたり、Instagramのように画像をアップしたり、同じ趣味の人が集まれるようにサークル活動ができたり(mixi風?)、いろいろな機能が搭載されていた。
せっかく登録したのだもの、どんな男性がいるのかさっそく検索することに。
でもねぇ、若いお嬢さんにはこの苦労はわからないと思うけれど、老眼にはスマホアプリはキツい。ちぃ〜さな画像だけでは、判別がつかない。だからズラリと並んだプロフィール画像を、上から順に、いちいちクリックして確認することにした。

まずはAさん。
パリッとしたスーツ姿で腕組みポーズ。50代半ば。マスコミ関係。
ここまでは良い。
自己紹介の欄に目を通す。
【警告!】
以下の女性は、決して僕に交際申し込みをしないでください!
・化粧もせずデートに来る女性
・おごってもらって当然と思っている女性
・ブス
・デブ
・中卒

・・・うわぁ。
なんか、ヤバいもん見た気がする。
気を取り直して、次の人のプロフィールをチェックする。

Bさん。
バイオリンを構えている姿。精悍な顔つき。
他に、お手製らしき木彫りのカエルの画像。
無職。50代後半。
自己紹介欄に目を通す。
無職という記載を見て引く貴女。僕も貴女のような人は願い下げです。僕が無職なのは○○家の末裔でありやんごとなき生まれだからです。僕は真面目に活動をしておりますがここは頭の悪い女性が多くて困ります。(以下、スクロールしきれないほどの長文)

・・・絶句。
なんだろう?二度も続けて禍々しいものを目にしたような気がするが。
気を取り直して、次!

こうして私は、10人ばかりのプロフィールをチェックしただろうか。
が、そこで初めて『足あと機能』なるものがついていることに気がついた。
慌てて自分の設定をチェックしてみると、足あとを残すようになっていた!
なんか、やらかしてしまったような気がするが・・・
まぁ、よい。
他の機能をチェックしてみようではないか。

そこで、まるでTwitterな機能を試してみることにした。他の会員さんが、どんなつぶやきをしているのかも見てみよう。
と、こんなつぶやきが目に止まった。
「つい今しがた、未婚の母が僕のプロフィールをチェックしていました。どういうつもりでしょうか。悪いけれど、貴女と僕では格が違います。もう二度と僕のプロフィールを見ないで欲しい」

っっっっって!!!!!

これ、まごうことなき、私じゃん!
怖えぇ〜〜〜!
変な汗が、頬を伝う。
ネット婚活って、こんなに恐ろしいものなのだろうか。
そこで、ふと思いつき、今度は女性のつぶやきをチェックしてみることにした。一体、どんな女性が活動しているのだろうか。

婚活開始から約2時間後、私は『退会』ボタンをクリックしていた・・・。

女性のつぶやきもまた、男性陣と似たようなものだったのだ。おごってくれない男性は願い下げです、から始まって、初デートでこんなひどいことをされた、あんな失礼なことをされた、との書き込みと、さらにサークル活動を覗いてみると、『婚活被害者の会』とか、『キモヲタ撲滅委員会』とか、そりゃもう、ひどいものだった。

類は友を呼ぶ、というから、私も同じ穴のムジナだ。
けれども言いたいのは、異性に対して恨みの念を持っていたら、いくら頑張って婚活してもうまく行かないよ。

後日、悪友にこの話をしたら「ルサンチマンだね」と。
高校のとき、ルサンチマンの意味は習ったけれども、この年齢になってやっと、ルサンチマンという言語を自分のものとして理解できた気がする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?