くそジジイに胸を揉まれた話

昔の話だ。
中学校に上がると、突然視力が低下しはじめた。
両親も眼が悪く苦労をしたので、何とか自分たちの娘だけは、視力の良いままでいてほしいと願ったのだろう、近所にあった怪しい「視力回復研究所」なるものに通わされることになった。
視力回復といっても何のことはない、内科のお医者さんが低周波発生器をまぶたに当てるというだけのものだ。
子ども心に「こんなもので視力が回復するのか?」と怪しみながらも、母を怒らせると怖いので仕方なしに毎週通った。

嫌々通っているせいなのか、ある時、研究所に行く直前、差し込むようにお腹が痛くなった。
それを母に訴えると、「ちょうどいいじゃない。研究所はもともと内科のお医者さんなんだし、お腹も診てもらったら」と、軽い返事。
で、腹を抱えるようにして研究所を訪ねた。
先生はシワシワのおじいちゃんで、嫌いではなかったが、何だか圧のようなものを感じて私は苦手だった。
それでも母に言われた通り、お腹の痛みについて先生に訴えると、ベッドに横になりなさいと言う。
制服のまま横になると、先生は、「それじゃあ診察できないでしょ、下着にならないと」と言う。
くそババアになった今だからわかるが、このときすでに、先生にはある企みがあったのだと思う。
でも、ウブな私は言われるがままに下着姿でベッドに横たわった。
先生はお腹をさすりながら、「ここは痛い?」「こっちはどうかな?」などと言っていたが、途中から無言になり、だんだんとその手は胸の方にのぼってきた。
私は「イヤだなー」と感じながらも、お医者さんのすることだからと、されるがままになっていた。
先生はある程度、私の胸をモミモミしたあと、ハッとした表情になり、「服を着なさい」「診察は終わり」と、背を向けてしまった。

ところが窓口で会計を済ませ、薬を受け取り、家路を急ぐ私を、先生が追いかけて来た。
黄色のバラを携えて。
「やすこ君、来週も必ず来てね。これは私の気持ち」

腑に落ちないまま家に帰り、改めてもらったバラを見ると、それはホコリをかぶった造花だった。

翌週、約束通り視力回復研究所に行くと、窓口で看護師が言った。
「ごめんなさいね、先生、やすこさんが来た翌日、お亡くなりになったの」
「先生、やすこさんのこと可愛がっていたから、お線香あげたら喜ぶわ」
遺影に手を合わせながら、あれは老いらくの恋だったのか、はたまた只の悪戯だったのかと混乱した。

私の視力は、くそババアになった今でも回復なんてしていない。

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