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四行小説

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だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
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2024年5月の記事一覧

蚕の白は何処から // 24521四行小説

 白い姿が桑葉を食む。蚕はどれだけ緑を食べようとも、姿は絵の具を乗せたような真白のままだった。人間は少し蜜柑を食べただけで手が黄色くなるというのに。
 美味しそうに食べている姿を見れば、美味しいのだろうかと気になるもの。味を聞けば口は止めないままに微かに頷いた。
 ならばとまだ口を付けていない葉をちぎり、口に入れれば草のような柏のような緑の味が広がった。美味しいとは、言いがたかった。
 このまま食

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狂わない桜 // 240520四行小説

 青々と繁る桜の木の下で君は懐かしむように仰いだ。目に映るのは、葉ではなく、空でもなく、記憶の人だということを俺は知っている。それはもちろん俺ではない。
 この木は秋になると狂い咲きの花を咲かせるのだが、狂い始めていたのはもっとずっと前の、例えば今日のような日からだったのかもしれなかった。