狂わない桜 // 240520四行小説

 青々と繁る桜の木の下で君は懐かしむように仰いだ。目に映るのは、葉ではなく、空でもなく、記憶の人だということを俺は知っている。それはもちろん俺ではない。
 この木は秋になると狂い咲きの花を咲かせるのだが、狂い始めていたのはもっとずっと前の、例えば今日のような日からだったのかもしれなかった。

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