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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑳「無いものは無い」


私は家族旅行に行ったことがない。
母の実家に帰省する、ということはあったが、
家族みんなで旅館に泊まるとか、テーマパークに遊びに行くという経験はない。

家族で出かけたいという気持ちがなかったわけではなかったが、借金問題があることで言っても叶わないということはこどもながらにわかっていた。
だから、不幸、というわけでもなく、
両親が兄のバスケットボールの練習や試合に飛びまわる土日は、一人で家で絵を描いたり、好きなテレビを見たり、ひとりで遊べる空間が好きだった。それなりに楽しんでいた。

しかし、大人になるにつれ、友達同士で旅行に行く経験を通して、見知らぬ土地へ行く楽しさに気付いてしまった。
長距離運転、新幹線に乗ること、飛行機に乗ることどれも私からすると、非現実的な体験だ。
それらのことが、今の私が求めていることだと思った。

H氏はフットワークが軽く、すぐに手配してくれた。

私はその日の為に、少し奮発して新しいワンピースを買った。
久しぶりのショッピングだった。
好きなものを選ぶということは本当に楽しい。

そして、当日。
午前中からの出発。H氏の運転で、静岡県まで行く。

私は乗り物に乗るのが好きだ。
車内で特別何か会話がなかったとしても、窓の外を見るだけで楽しめる。

海老名SAできびだんごとカツサンドを買ってもらった。
とにかく楽しい。
些細なことかもしれないが、何が食べたいか自分で選ぶこと、
色んな地方からやってきたであろう、車のナンバーを見たり、
86を見つけたり、童心に返るとはまさにこのことだ。

私は海に行くことだけが目的と思っていた。
そして、H氏おすすめのご飯屋さんに行くこと。

しかし、道中でH氏は言う。

「それしか決まってないから、あとは運転中にみこが気になったところがあれば~…」

(ん!?決めていいの!?自由に決められる!?)

一気にテンションが上がる。
熱海の秘宝館に行きたいと言った。

山道を登り、駐車場までやっとこさ辿りついたが、暑さで疲れていたのかカタコトを喋る案内人に駐車場は閉鎖中だと言われ、また山道を下る。

がっくし…と思いきや、その案内人が私とH氏のツボにはまってしまい大爆笑してしまった。

観光客も多く、学生と思われる男女数名とすれ違う。

(彼ともこうやって遊びに行きたかったなー…)

なんて、思いながらも、ロープウェイに乗るとそんなことも忘れてしまう。
特別な体験をしていることに、私はとにかく、心の底から楽しいと感じられた。

保育士時代、朝MTで園長に怒られ最悪な始まりだ…と感じたとしても、日中、こどもたちと公園に行き、一緒に砂場で遊んだり、鬼ごっこをしたり、思い切り遊ぶことで、午後も頑張る気持ちに切り替えられていた。
その事を思い出す。
大人だから、といって遊ぶことをためらってはならない。
思う存分、童心にかえってはしゃぎまわることが、私の心の回復には必要だった。

H氏はそれを叶えてくれたのだ。

そして、海に着いた。
まだ、シーズン前ということもあり、全く人はいなかった。
3歳くらいのこどもと小学生くらいのこどもがいる。家族で来ているようだ。

私は3歳のこどもと同じマインドになっていたと思う。
砂浜を見た瞬間に、早く走って波打ち際まで行きたいと思い、うずうずしてしかたなかった。

この日の為に、きちんとサンダルもタオルも準備していた。
服は新調したため、気を付けなければならなかったが、もうどうせなら汚れても問題ない服も持ってくれば良かったと思った。

思いっきり走り、海で遊ぶ。30歳の女。(笑)

恥ずかしさなんて皆無だ。
夢が叶ったのだから。

H氏は、「1番いい顔してる。」と私に言った。

頭と心が一致していることを、体現することが、心の充足だ。
いい顔をしていたのは、それが理由だ。

日帰り旅行だったので、名残り惜しさを残しつつ、海を離れた。
海の他にも、吊り橋に連れて行ってもらった。
山道を歩きながら、な~んだ!変わった昆虫いないじゃん!などと、余裕でいた矢先、足元に15センチほどのムカデが現れる。絶叫。
コントのような流れに、またしても大笑い。
本当によく笑う1日だ。

鯵のたたき丼もご馳走になり、元気のよい店員さんに癒される。
もうあっという間に夕方だ。

帰りの車内、何を話したかは覚えていない。おそらく彼についての考察だったかと思うが。
だが、自分が何を感じたのかは覚えている。
H氏と過ごした1日の中で、私は父親について考えていた。

自分の父親、中2の時に、勇気を出して意見を述べたが跳ね返されてしまったこと。
父は兄との時間が長く、兄の事で喜び、怒り、泣き、それを一線引いて見ていた私。
私が一人暮らしを始めて、自然と関わる機会が減った。
異性関係について、躓く事が多い自分。

父親に娘らしく甘えた経験がない。
一緒に旅行に行ったりすることはなく、2人で出かけることはあったとしても会話は全くない。
お互い、何を話せばいいのかわからないのだ。
父は、みこは母親との方が話しやすいと思っているし、私は、父は兄の方がよいのだと思っている。それに親の経済面への心配が先に出てくる。

このことから、幼少期からの異性との関わりのブロックが、私の今の恋愛にも通じているのだと感じた。

本当は甘えたいのに、甘えられなかったこれまでを、H氏との日帰り旅行の中で俯瞰して見ることができた。
幼少期の寂しさを、自分の意地によって見ないふりをしてきた。
結果、寂しい気持ちを表現することが悪のように思い続けてしまっていた。
人に「寂しさ」を伝えたり、甘えることがあってもいいのだと思えた。

H氏には本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

そして、「俺と出会ったからには幸せになってもらわないと困る。」と言う。

ママからも言われた言葉だ。
この同時期に、同じ言葉をかけられるとは。

ここで、漫画ワンピースの話になるが、エース死後、ルフィが取り乱す場面がある。
麦わらの一味もそれぞれ、別の場所へ飛ばされ、離れ離れに。
ルフィはより、悔しさと孤独を味わうことになるが、そんなルフィにジンベエが言う。

「今は辛かろうがルフィ。それらを押し殺せ。
失ったものばかり数えるな。
無いものは無い。
確認せい 
お前にまだ残っておるものは何じゃ」

この、「無いものは無い」という言葉が当時の私にはよく刺さったのだ。
そして、まだ残っているものは何だというところ。

「仲間がいる゛よ!!!!」と泣きじゃくりながら、
ルフィは言うのだが、当時の私も似たような事を思った。

私は本当に運が良い。

これまでの人生の中で、必ず、節目に表れる、影響を与え、救ってくれた人。

中学時代のカウンセラー(自称魔女)
一緒に相談室登校をしていた友達のE

高校時代にできた親友

母方の祖母

保育士時代の園長

一応、彼もだ。

そして、ママ、H氏

みんな、私が30歳になっても大事にしたい言葉を投げかけてくれた人たちだ。

自分の向き合うべき課題に、気付くきっかけを与えてくれた人たち。

どんなに、自分が損をし、心も体もボロボロになったとしても、こうして、経験の場を惜しみなく与えてくれる人がこの世にいる。その居心地の良い空間の中で、とことん甘える経験もさせてもらった。
休むことも。怒りや悲しみを発散することも。


私は多額の金銭を損失したと思っている。
実際、ちまちま返済はあるが、いつ返済がとまるかなんてわからない。


返済への不安はとまらないが、

無いものは無い。これは借りた彼も一緒だと思う。
無いから返せない。そう思う事にした。


今私にあるものは、
自分を奮い立たせようとしてくれる、
心を救おうとしてくれる人や環境がある。


この頃から、彼に対する本当の気持ちの整理が始まります。


㉑に続いちゃいます。残り2話くらい♡

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