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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑬「自信喪失」



重い空気が続くと、軽くしたいと考える。

ネガティブ思考に陥ると、ポジティブ思考に切り替えなくてはと、きっかけを探す。

自分の心が曇ると、見る目も曇ってしまうことはよくわかっていた。
他者からの善意、味方になってくれた友人でさえ、
(あなたは楽しそうでいいね。)と、
卑屈な見方になってしまう。

だかからこそ、
負の感情を一刻も早く消化しなければ、
切り替えなくてはと焦っていた。
誰かを嫌いになることなんてないと、
自分の博愛主義に固執していたところもあった。

彼は私からの言葉に対して、
「最近エッチした?」と返す。

いきなりすぎて、動揺した。
自分に気持ちは残っていないと言いながら、
私が「好き」という言葉を含めたメッセージを送った瞬間に、この質問だ。
からかっているのか。
相手にも気持ちが残っているのか。
全く理解ができない。

「どうしてそんなこと聞くの?」

「したの?」

私の返しは無視される。圧を感じた。

「私は好きな人としかしません。
そういうことを聞くのは勘違いするのでやめてください。」

「そっか。でも大事だよ?」

経験不足をからかっているのだと感じた。

「自分に気持ちがないと言っておきながら、
 そういう質問してくる意味がわからない。」

これが発端でメッセージバトル第2ラウンドが始まってしまった。

私の中で、彼の「エッチしたの?」という質問がやけに心に引っ掛かる。
恋愛における思考回路は極端になりがちで、本当に疲れてしまう。
「彼は私のことがまだ好きなのでは?」という憶測も芽生え始める。
だが、

「エッチしたか聞いたくらいで、
 勝手に勘違いして、だから経験不足なんだよ。」
「自分が美人で中身もエッチも良い女と思っている
 ならいいんじゃないかな。」

これにはさすがに傷ついた。
ボディブローのようにじわじわ痛みがくる言葉だった。
傷を負いながらも、アドレナリンがドバドバだ。
こちらも煽りがとまらない。
(本当にこのループから抜け出せて
 よかったと今は思う。
 こんなの、恥晒しである。)

「あなたにも同じこと思ってました。
 そっくりそのまま返すわ。」
「顔とSEXで金稼ぐ男だもんね。」
「LINE上であなたの顔見るだけでも吐き気するので、消しますね。
お金については毎月末日アプリ上で確認します。
不備があれば私の電話番号に連絡してください。」

月末のお金の返済を頑張っていただくよう、図太い釘を刺しておき、私は返信を待たずに、迷わず彼のアカウントをブロック・削除した。

そして、返済日である1月末。


アプリで入金を確認するが、未納である。
その日は1日様子見をしたが、結局、入金はされなかった。

翌日。2月1日
私から彼のメールアドレスに電子借用書サービスから自動配信される督促メールを転送した。
返事はない。既読機能は本当に便利だったなと思った。
続けて、ショートメールで督促依頼を送るが、何か怪しい。
電話をかけた。

着信拒否されている。

まさか。あとはお金を返していくだけ、というのは本当に嘘だったのか。
やはり、彼の気持ちを満たさないとお金返ってこないのかと、頭を抱えた。

ここからの私の思考は、いかに彼の気持ちを良くさせて、お金を取り返すかに切り替わっていく。

私は、実際、家賃更新の年だったため、まとまったお金が必要な状態ではあった。
メールでは、彼に再度、困っている状況を伝え、返済のお願いをした。

貸した側が、頭を下げる。納得いかないと思ったが、我慢だ。

メールの返信はなかった。
深夜、LINEのバックアップデータから、彼のアカウントをリストに復活させ、
着拒したでしょと、絵文字付きで送った。

なるべく、苛立ちを感じさせないよう、柔らかさを意識した。
そして、2回目のメール内容を見ていないことを考え、LINEでも重複した内容を送った。
LINEのバックアップデータは、彼と電話してから、ブロック削除宣言のトーク履歴がまるまる消えていた。
私がブロック・削除宣言をした後に、彼から何か送られてきていたのであれば、それは確認できない。

「執念深くてごめんだけど、メールでも送ったように、今年家賃更新もあって、本当に困ってます。」
「今月の返済の可否だけ教えてほしいです。」

半日経っても返信がない。
とにかく、話しやすい言葉遣いを意識した。
追いLINEなんぞ、私だって本当はやりたくないことなのだ。
私は女優。私は女優。暗示をかけた。(笑)

「返す気なくなっちゃった?ごめんね、〇日以降のトーク履歴残ってないので、最後返済について何か言ってたとしたら、教えてください。」

「2月中に返します」

よしきた。
だが、返済日は過ぎている現実がある。
ここで、わかったと飲み込むのが、今までの甘い私だった。

「今日の時点で〇〇円は厳しい?」

「うん」

ここで爆発してはならぬ。
あの激戦の第2ラウンドから、返す意思を確認できたことが、まず、成果だ。

「苦労するねお互い…。
 ありがとう、了解しました。」

気疲れするやり取りだ。
そうして、消したかった彼の連絡先が、LINE上に復活してしまった。
そして、彼のLINEの背景が変わっている。
某タイムリープ系不良漫画の、無敵の男が飛び降りるシーンである。
私がその漫画を好きなことは彼も知っていた。
ましてや、このタイミングでそのような物騒なシーンに背景を設定するということは、
少なからず彼もダメージを受けているのか、
私に対する感情が残っていたからなのか、とまたしても余計な考えがわいてしまった。

私はもう、こんな落とし所のない関係と自分の思考に疲れ切っていた。
彼の感情もわからず、自分の感情も定まらない。
お金の返済についても、先が長く、安心できない状態。
自分の経済不安も続いた状態だ。

彼から言われた言葉「経験不足」が呪いのように頭から離れないでいた。
自分の見た目が良いと思ったことなんてない。
だが、エッチがそんなに大事なのか?
時間をかけて、ぶつかり合いながらも関わってきた事が全否定されたように感じていた。
ただ、感情的に放った言葉であったとしても、
「ずっと彼はそう思って私を見ていた」と捉えてしまっていた。
私と彼の時間は全て無駄だったのか。

彼の命を心配したことも、福岡へ行ったことも、お金を3度貸したことも。

意味のないことなんてない、と思って、これまで生きてきた。
いずれ、理解し合える、
あの時はこうだったんだよね、とお互いの誤解を解く日が来ると、
どこかでずっと信じていた。

でも、私の基盤となる考え方が、全て間違いだったのかもしれない。

完全に自信を喪失していた。

仕事から帰宅すると泣く日々が続いた。
わけもわからず涙が止まらなかった。
夜中に急に目覚めて、声をあげて泣く。
良い年をした大人が、恥ずかしいが、とにかく限界だった。

「こんな娘でごめんなさい。」と何度も言って、一人で泣くこともあった。

親を安心させるために、結婚を意識し始めた。
よくある話だ。
だが、こんな結果になってしまったことに、母親に対する罪悪感がとまらなかった。
当時は、考えなくてもよいことを、とにかく考え込みすぎていた。
思考に時間を費やしてばかりで、全く何も、私は「行動」していなかった。

疲れた脳で考える。

結局、お金がなかなか返ってこない不安感が、
私の情緒が荒れる原因なのでは、と。
私も歪んだ博愛主義者だ。

彼の気持ちを勝手に想像し、決めつけている。
嫌われることをどこかで恐れ、わかったような口を利く。

相手を責めたとしても、返ってこないものは返ってこない。

ないものは、ないのだ。

ならば、まずは、自分の気持ちの安定のためにお金を稼ごう。
私は、自分のために、ダブルワークを決意した。


⑭に続く。

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