彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑫「1年半ぶりの彼の声」
私は彼に、当月末の返済金額を借用書の金額(月額)の7倍で指定した。
(私もなかなかあくどい)
そして彼には、元カノにはアカウントの件は言わないよう、念押しした。
今更遅いが、関係のない人を巻き込んでしまったという気持ちになってしまった。
もうこんな思いを抱いたところで偽善だ。
取り乱さないようにと、頭が働いたが、遅かった。
彼は即座に元カノに連絡を入れた。
アカウントはすぐに削除されていた。なんて伝えたのかはわからない。
元カノのアカウントを突き止め、それをネタに、お金を返してもらった。
一見この流れは、こちらが悪党染みているなと、彼に対して罪悪感が芽生える。
ここで、また、嫌な妄想が始まる。この件で、彼が命を落とすなんてことはないだろうか。
過去に、3回、死にたいと言っていた。
生命保険の受取人になってほしいと言われたこともあった。(noteの記事内でこの話は割愛している。)
彼の1回目の返済をされた翌日、無意識的に、彼の電話番号に電話をかけていた。
今まではLINE通話でかけていた。
電話番号を何故知っていたかというと、借用書作成の際に彼から教えてもらっていた。
「はい。」
出た。
彼らしき声の人が出た。
約1年半ぶりに聞いた声だったのだが、本当に彼なのか、私の方が疑ってしまった。
思わず、彼の苗字を聞いてしまった。
「〇〇(彼の苗字)さんですか?」
「…はい。」
電話をかけておいてなんだが、まさか出るとは思わなかったため、こちらの手が震える。
「みこです。覚えてますか?」
「なんで知ってんだよ。」
怪訝そうに言う。その態度と、覚えていないことにカチンときてしまった。
「借用書作ったときにあなたから聞きました。」
「ああ…、なに…?」
電話越しにライターを点ける音がする。彼の煙草はセブンスターだった。
電話をかけたはいいものの、正直、何を話そうかまとまっていなかった。
咄嗟に出た言葉は、
「あの、大丈夫?昨日の件。」
だった。
私が原因だろう、と自分で自分に厳しいツッコミをいれた。
「あー…よく見つけたね。相当調べたでしょ」
「結婚詐欺情報調べてたら見つけた。」
苦し紛れ、というか、こども染みた回答しかできなかった。
沈黙が続く。
仕事のこと、お金のこと、いくつか質問したものの、無視または「別に」といった回答を受ける。
その当時は、茨城にいると言っていた。寮みたいなところだと。
そして、ここでも彼のペースに持っていかれてしまうのだ。
彼は言った。
「みこは俺の声聞いて、安心したかったんでしょ?」
「巻き込んだのは悪いと思ってるよ。でも、この1年間で理不尽な事もたくさん経験してきた。」
「普通になろうと抗ってきたけど、もう疲れたと思って、ただ、俺にできることは、死なずにお金を返していくこと。」
「自殺はださいなーって思ったから。」
傾聴のスタンスでいたのに、最後の発言が癪に障った。
「LINEで嫌味言われたり、勝手にこっち来たり、(生存確認の件)よくやるよね。なんなんだろうね。」
「あなたが住所を取得していたら、ここまではしてません。」
自分を正当化するので精一杯だった。どうしても、マウント合戦になってしまう。
「…。みこちゃんは執着?なのかな、母性が強いというか。」
「みこは俺を目の前の椅子に座らせて、話をしたかったんでしょ?」
「でも、みこちゃんがずっと話してたのはサンドバックでした。悔ちいね。」
「だから、この子面白いなーって思ってたよ。」
「俺も考えてたんだけど、みこちゃんが俺から離れられないんだって思ったよ。俺は冷めたら早いからね。」
「圧倒的に恋愛経験値が少ないから、こんな男に引っ掛かるんだよ。」
「借金返し終わったとしても、俺は誰のところにも戻る気ないよ。待ってるだけ、みこの時間が無駄。」
「だから、俺との経験を踏み台にしてください。」
「直接話すとみこはまた待とうとするのわかってたから。悪い男で終わってればよかったね~。」
いちいち腹が立つ。寄り添っているのか、貶しているのか。
こんなに流暢に喋っているが、こやつ、まだ1回しか返済をしていない。
ここまで、偉そうに物をいうのも、なかなかの神経である。
だが、この状況でさえも、そう言えるほど、私が舐められた女というのも理解していた。
なんといっても、私は泣いていたからだ。本当に負けっぱなしの弱い女である。
そして、彼に見透かされた気持ちになった。
無自覚だったところを突いてくる。悔しいが、彼との関わりの中で、気付かされることも多かった。
相手を通して自分を見つめる。
「私は、あなたが本当は寂しがりやなのわかっていたから、とことん愛情を注ごうと思った。」
「きつい言葉になっても、真剣に向き合うのを諦めないぞって思った。」
「私なりに、仕掛けたこともあったけど、
どれもはっきりしたことが返ってこなかったから、
もうどうしていいのかわからない。あなたの言う通りなところ、あるよ。」
私の彼に対する気持ちは、異性としての好意なのだろうか。
結局、騙された女、とも言いにくい。
私は彼に何を示したかったのだろう。
彼は黙ったあとに、「俺はひねくれものだからね。」と言っていた。
私はひねくれものが好きだった。友達にもいる。
彼のこの発言は『憎めないやつ』という印象への切り替えのためだと後々思った。
私は、泣きじゃくっていたが、頭の中には、客観的に見ている自分がいた。
彼のこのような、恋愛関係における自意識に苛立っていたのは事実だ。
現時点の、私と彼との間にある金銭的問題と向き合わず、
優位に立とうとするのであればこちらも動いてやる、そう思った。
「でも、女の涙に騙されちゃだめだよ。」
宣戦布告のように、釘を刺しておいた。
彼はそこまで、この言葉を気に留めていない。
そもそも、私の発言の意図を理解していないことが多かった。
よって、彼も苦しむことになる。
当月末の返済額も、「なんとかするよ。するしかないでしょ。」と言っていた。
その後は沈黙が続く時間もあったが、向こうから強制終了させることはなく。
それが少し嬉しかったりもする自分がいた。
「はやくおわんねーかなって思ってる。」と言われたが。
私も、もう伝えることはないなと思い、電話を切った。
電話は約2時間。電話料金の請求が恐ろしい。
結局、一睡もできないまま、何も食べず、会社の健康診断へ行ったのを覚えている。
ふらふらな状態だった。体重は減少、心拍数も上がっており、今までで最悪の結果だった。
そのおかげで、自分のバイオリズムを1から見直すことができたのだが。
私は、落ちた気持ちを立て直そうと前向きなメッセージを彼に送った。
「好き」という言葉も含まれていた。
だが、そこでまた、波乱が起こる。
⑬に続きます。
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