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過ぎる日、来る日

1月がやってきて、過ぎていった。

いつかの冬を思い出す。今より、過ぎる時間が遅く感じられたかつてのことを。
そのことは、よく雪が降った。が、その寒々しさを打ち破るほどに友人との友情は深かった。
もう、その日々が戻ってくることはない。

2月もやってきて過ぎていった。

いつかの日を思い出す。友人たちと仲良く雪合戦をした日のことを。
友人の投げる雪玉には“やさしさ”が込められていて、私は雪玉にあたるとあたたかささえ感じたものだ。

もう、あの日々が戻ってくることはない。

3月もやってきて過ぎていった。

いつか歌った春の歌を思い出す。
今頃、森ではふきのとうが芽吹いているだろう。幼い日々は自然と一体だった。今も家に咲いていた小さい花のことを覚えている。

もう、あの日々が戻ってくることはない。

私をのせて、時は移ろう。時は後ろに下がらない、ただ、前にのみ進む。
いつかの時は戻ってこない。絶対に。永遠に。

4月がやってきた。
私の家の庭に小さな花が咲いた。朝露で葉に小さな水滴がついている。その姿が美しく私はその小さな花を写真におさめようと思った。
でも、やめた。

この感動は写真なぞには写らない。もしかすれば、あと数分もすれば小さな花についた朝露は消えてしまうかもしれない。
写真に写しても“ただの花”しか写せないと思った。

それよりも、この花の美しさを目に焼き付けておきたかった。
時は過ぎるからこそ美しい。一時、一時と進んでゆくから美しい。
かつての日々は戻ってこない。
だからこそ、美しい。

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