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私の合唱指導・中1編①

16年前、私が中学校で初めて中1の音楽の授業を行った時、最初に、彼らが小学校で歌った「旅立ちの日に」をみんなで歌いました。
とても感動して、「こんなにすばらしく歌えるならば、中学校で私が教えることは何もない。もう明日卒業式でもいい。」と思ったものです。

今思えば、当時3つの小学校から来る生徒たちは、うち2校は管楽器指導にかなり力を入れていた音楽専科の先生の学校、かなり熱心に音楽の授業も行っていました。もう1つ、最も多くの生徒を送り出す小学校は、当時臨時だけれど声楽専門の先生が音楽の授業を行っていました。
あの時の出会いの歌声を超える歌声には、その後出会うことはなかったですね。(笑)初任者の私へのプレゼントだったのかも。

さらに覚えているのは、初任者の私の元へ、同時に3人もの教育実習生が実習に来たこと。後にも先にも、同じ音楽で同時に3人も来たことないです。3人ともその中学校出身で。よっぽど充実した音楽教育が行われていたのでしょう。やはり実習生の話など聞くと、当時お世話になった中学校の音楽の先生の影響を受けて、というのがほとんどです。よい思い出なんでしょうね。私も教え子が音楽教師を目指して、というのが数人いますが、うれしいです。よい思い出として、その後の人生を左右したならば。

さて本題ですが、1番最近の中1の音楽科授業を元にしていきますが、ガイダンスと称して1時間、半分は教室で、半分は音楽室の座席を確認しながら1回目の授業を行いました。だから、最初は歌ってないですね。昔は、最初から歌ってナンボ、演奏してナンボ、という思いが強かったですが、経験を積んでいくうち、不用意な授業中の注意叱責を減らすためにも、最初に確認しておくことは大事だな、と思うようになりました。ちなみに、最初に私が確認する私のこだわりというか、ローカルルールは、忘れ物をしても報告しない、とかですかね。欠席したら次回授業前にプリントもらいにくる、とか。とにかく授業中に話しかけられるのが無理で。自閉的傾向が若干あるんでしょうね。

私がよく新任の先生とかにアドバイスするのは、最初の授業で自分の演奏を聴かせること。ピアノならピアノを弾く。教え方などは経験でよくなっていくし、最初はうまくいかないもの。でも学んできた音楽そのものは本物である可能性が高いし、言葉以上に生徒に訴える力がありますし、それだけで尊敬を得ることも場合によっては可能。ちょっとくらい授業下手でも、この作戦で滑り出しは良好なはず。……滑り出しはね。

さて、いよいよ2時間目、音楽室の座席は前回確認しているので、合唱隊形から授業スタート。椅子のみ3列の合唱隊形です。中1の最初は、とりあえず男女別背の順です。そこから、男子を女声と男声に分けて、女声は男女混合で背の順を作り直します。

ボーイソプラノに関する、私の経験からの見解は、女子より響く場合が多いが、コントロールに難あり、それから女子の声と混ざりにくい。成功すればかなりの武器になるが。

分け方としては、1人ずつ声を聞いてあげるのがベストですが、時間がない時は、弓場メソッドの女声用のトラック6の裏声を全員で歌わせ、難なく出せれば女声、きつければ男声、自己判断、としています。迷ったらとりあえず女声にいて、今後変更も可としておきます。その時は声を聞いてあげます。

弓場メソッドは、三重大学名誉教授の弓場徹先生の開発されたメソッド(コーネリウスの「ベルカント唱法」の理論に基づく)で、私が使ってるのはVictorから出ているオレンジの表紙の女声用と緑の表紙の男声用です。出会いは20年前ですかね。当時臨時で小学校で音楽専科をしていた時、本当に1番最初は、私主導でピアノ使って発声練習してました。卒業式の歌練習の時も、延々ピアノ使って発声練習してたら、一般の先生から不評でしたね。それ必要なの?って。じゃあ、今日は発声練習なしで、とか勝手に決められそうになったり。そこで出会ったのは弓場メソッド。CDを真似するだけだから、小学校2年生でも飽きずに取り組めた。小学生は、オウム返しとか本当に得意で。あとは私が男性だったから、女声の音域が出せないから、模倣した方が早い小学生にとっては、見本の女性の声があった方がよかった。
あとこれは今でも時々悩みますが、男性の裏声って女性が真似すると声が薄くなるんですよね。かといって男性の実声だと強過ぎたり、オクターブ下だから音取りにくかったり。ないものねだりだけど、女子は女性の先生、男子は男性の先生が教えるのが早い、というのはもうホントにそれですね。
声楽の先生とかでバリトンなのにソプラノ教えたり、とかこれはホントに尊敬します。「発声の基本は一緒だ!」とか言っても、でもやっぱりテノールがソプラノ教えても、やっぱりそれは違うんだよな、ってのはまああるし、そこはもう致し方ないですよね。

そうそう、1つすっとばしたけど、「旅立ちの日に」。最初に歌ってもらう曲。最初だからとにかく最後まで歌わせてあげたいし、褒めてあげたいし、あんまり余計なダメ出ししたくないし、本人たちには全く罪ないし。
ただやっぱり、低い音強く歌わせるのね。体育館で音量欲しかったんだろうね。
広い場所で女性の歌声が映えるのは、やはりFから上。だから「大地讃頌」とかは理にかなってる。卒業式で大地讃頌とか歌わせる中学校、私は大好き。わかってんな~って。うれしくなる。旅立ちの日にはね、中学校は混声3部のB♭durの学校多いと思うんだけど、あれは低くてダメ。

さてさて、中1で最初に扱う曲は「夏の日の贈りもの」。
校歌ではない。最初に校歌やっちゃうと、声もそろわない段階だから、めちゃくちゃになるし、男声も女声も斉唱もへったくれもなくなっちゃうから、そこで時間かけるなら、まずは合唱曲と弓場メソッドで声ある程度整えてから。私がやるのは、校歌はソプラノリコーダーで吹きやすい調に移調して、リコーダーで吹かせる。リコーダーのレベルも把握できるし、メロディー覚えられるし、後々歌う時楽だし。

「夏の日の贈りもの」を作曲した加賀清孝さんは、声楽家(バリトン)なので、音域は低いながらも声がよく出るように書かれています。ブツブツ切って歌っちゃう子どもたちには、フレーズの勉強にもなるし、男声は逆に高めに書かれているから中1にちょうどいいし、混声2部の練習に最適。言葉のかたまり、語頭を意識したりとか、鼻濁音とかも勉強できます。
この教材は私的には超おすすめなので、以前に新任の先生におすすめしたことがあったんだけど、ダメでしたね。失敗でした。その先生はこの曲を教材として扱ってくれたんだけど、効果がほとんどなかった。私はこの曲で、とにかく、声の出し方や声をそろえていくことを徹底的にやりますが、なんだろ、そういう目的意識ないと、ダメなんでしょうね。

話戻りますが、最初背の順にしていた並び順も、このへんからどんどん変えちゃいます。ある程度しっかり歌えていて、音量とか響きの傾向が似ている生徒を隣同士にすると、響きが倍増します。それが前後左右に波及していき、パートとしての歌声が形成されていきます。専門家集団ではないので、それぞれの場所で各個人がただ歌っていても合唱にはなっていかないです。

中1の男声、というより中学生の男子ほとんど最初はそうですが、ヘ音記号の5線からすぐ上のドレミのあたり苦しそうに歌います。これは、僕自身の経験からも、普段話している日本語の問題が大きいです。僕はテノールなので、ドレミなんて高くねえし、って今ならそうなんだけど。でも普段話すように歌うと確かに出ません。大学時代ドイツリート専門のバリトンの先生が、よく、ゆっくり発音しろ、って言ってましたね。しゃべるようにハキハキ言うのではなく。
やみくもに、歌う時ははっきりと発音しましょう、という指導が繰り返されてきた結果でもありますし。もう私など面倒くさいから、場合によっては、「『言葉をはっきり歌いましょう』って教わったでしょ?あれ嘘だから!」って言っちゃいます。

あと、この曲に限らず、ピアノ伴奏はブレスをある程度待ってくれるよ、ってことも教えます。吹奏楽の行進曲でない限り。

声がそろってきて、息が流れて、声に伸びが出てくると、伴奏のピアノの音によく共鳴するようなります。心地よい。

音取りはメトロノーム(指定のテンポよりゆっくりめ)鳴らしながら(振り子)やります。音取りOKでピアノ伴奏だけに切り替わった時に、メトロノームとります。声が乗ってきたらテンポ少し前向きにいくので、その時メトロノームが邪魔になります。

もう1つ。最初の音取りは最近はピアノでやります。ハーモニーディレクターでやっていた時代もありましたが、ピアノの方が声の音量の加減が判断しやすい、要はハモディレでやると声が小さくても出てるような気がしてスルーしちゃうんですよね。音が持続できちゃうのもあって、声に伸びがなくても気付かずスルー。ハモり初期の練習で、ピアノだけだとどうしても片方のパートがつられちゃう時(どっちの音も弾いてるのに)は、キーボードの録音機能で両方のパート鳴らしつつ、つられちゃう方(だいたい男声だけど)をさらにその上からピアノオクターブで鳴らしたりします。キーボード自動再生しつつ自分が合唱の列に混ざって一緒に歌ってあげたり。

音の助けなしで歌えるようにさえなっていれば、つられないはずなんだけど、合わせた時の初期症状として、いったん声が引っ込むことがあるので、それは慣れだし、一緒に歌ってあげることで解消される部分もあります。要は加減がわからないのね、最初は。他のパートが鳴っている時の自分の声の加減が。

そうこうしているうちに、混声2部合唱「夏の日の贈りもの」を通して、クラス集団が合唱する集団へと、少しずつ変わっていきます。
姿勢や体の向き、集中度にも気を払い、積み重ねていきます。
合唱している人たちって、ステージマナーとしてそういう体の動きとか、ふるまいが体に染みついていますよね。あ、体の動きで思い出したけど、拍で体動かすの、癖なのでなかなかとれないんだけど、フレーズで動くならいいけど、拍で頭振るのなし、ってしつこく言うようにはしています。

次回は、今回の補足と、中1としての2曲目「夢の世界を」の記事に入りたいと思います。質問あれば遠慮なくどうぞ。

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